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【ライター仕事場探訪・第5回】日本の普通が通じない。インドのダイバーシティが執筆活動の糧に
世界で活躍するPENYAライターの仕事場を覗く【ライター仕事場探訪】。第5弾は、IT、IR、マーケティング、海外トレンドがご専門で、数カ月前にインドへ移住した見上すぐりさんをご紹介します。
出産、子育て、インド移住
インド移住は主人の転勤がきっかけです。昨年11月に出産をし、仕事への本格復帰を考えていたタイミングでの辞令でした。今年の6月に、生後6カ月の娘と愛猫2匹を連れてインドへ引越し、現在4カ月目となりました。この一年間は、出産、子育て、インド移住と全てが押し寄せた人生の転機と言えます。これから最短でも5年、最長では10年のインド移住生活です。
これまで欧米企業のウェブサイトやマーケティング資料の日本語へのローカライズ、大手IT企業のセキュリティシステムのローカライズ、日系一部上場企業のIR資料やマーケティング資料の翻訳にも携わってきました。そのなかでも最もはまった分野がインバウンドマーケティング。現在は、イノーバさんのブログ記事の執筆をさせていただています。
仕事場は自宅の一室。ブレインストーミングは素敵カフェで
まずはベビーシッター探しから
インドの中層階級以上の家庭では、住込み、もしくは12hour(例えば、朝の10時〜夜の10時までの12時間)のメイドやスイーパー(お掃除係)、ナニー(ベビーシッター兼教育係)を雇います。わたしも仕事に打込む時間が欲しくてナニーの採用を決意しました。
驚くことに、住込みのナニーのほうが安く、優秀な人材が多いというのが実情です。インド人の友人の紹介で採用したナニーは、英語が堪能で0歳児の娘のベビーシッティングだけでなく、教育や食べ物、インドでの安全面を考慮したアドバイスを熱心にしてくれるプロフェッショナルな人材でした。気になる相場ですが、1カ月15,000ルピー(約24,000円)〜20,000ルピー(約32,000円)。日本と比較しても非常にありがたい価格帯です。因みに、食費や光熱費は雇用者の負担です。
執筆活動は自宅の一室で
執筆作業は、日中に3〜4時間自宅の1室を作業場にし、取り組んでいます。インドの家はとにかく広い。念願の自宅オフィスが完備でき、心配の種であったネット環境もまずまずです。仕事から見える風景は国立公園と、その横にそびえ立つ高層マンションです。まさに、今のインドを象徴するような風景です。
自宅オフィスからの風景
そして、インドと言えばチャイ。日本でも大好きだったチャイをこちらではハンドメイドし、リラックスしながら執筆活動に勤しみます。
茶色の家具が多いインドで白いデスクと椅子を揃えるのは至難の技
ブレインストーミングは近場のカフェやレストランで
時たま、気分転換も兼ねてカフェに出向き仕事をします。インドにも素敵なカフェやレストラン街があり、期待をあまりしていなかっただけに、探索が楽しみの一つです。もう一つ意外であったのは、お酒を飲める場が多くあることです。金曜日の夜は、若いカップルや仕事仲間がレストランに集い賑わっています。月に1度を目標に夫婦水入らずで食事に行き、お酒を飲みながら記事のテーマやインドのマーケティングについてMBAホルダーの主人と熱く議論します。
近所のカフェのテラス席で主人とブレインストーミング
インドの衛生問題は深刻
特にわたしが住むグルガオンの大気汚染は深刻です。PM2.5のレベルは世界最悪と言われ、特に冬場は数値が200を超えることもあり外出もはばかられるそうです。上下水設備が整っていないため、水質汚染も深刻です。浄水器のフィルターを通した水は飲むことができますが、それ以外の水は腸チフス感染の危険もあり非常に危険です。幸い、わたしの住むグルガオンの水は透明ですが、デリー近郊の都市ノイダでは一部黄色い水が出るエリアもあると聞いています。子育てにはかなり課題の多い環境ではありますが、ホスピタリティが高く、温かい人柄のインド人に助けられながら生活をしています。
急速に建設がすすむ高層住宅街と、その前のゴミ広場に群がる牛たち
インドでの刺激が執筆活動の活力に
インドを形容する際に、「ダイバーシティ」という言葉が一時流行りました。その名の通りインドはさまざまな「人」、「もの」、「考え方」で溢れています。ここでは日本の普通は通用しません。普通という概念がまだ確立されていないのかもしれません。一つ意外であったのは、国籍という点では多様性は低いようです。特に欧米圏や中華圏の人々は極端に少ないように見受けます。
現在のインドは高度成長期の日本のようで、多くの人が溢れ、活気があり、そして混沌としています。布やトタンでできたバラックが立ち並ぶ貧困エリアの隣のブロックには超高級マンションが建設され、オートリキシャと呼ばれる三輪タクシーが走る後ろにはポルシェが追随しています。裕福な時代に育ったわたしにとって見ることのなかった貧困によるさまざまな問題は、新たなものの見方や考え方のきっかけになっています。
IT企業のオフィスと各国のレストランが集まるエリア「サイバーハブ」
経済が劇的に発展する過程を目の前で見ることは、日本では経験し得なかった体験です。インド人自身も豪語する「生活の不便さ」がよい刺激になり、執筆活動の糧になっています。ものが不足していた昭和の時代にタイムスリップしてマインドセットができる場所。インドはわたしにとってひらめきのるつぼです。
PHOTOGRAPH BY Ricky Jaswal & 見上すぐり
著者プロフィール

- 見上すぐり
- 海外向けコミュニケーション、マーケティング会社でアメリカ人マーケターとチームを組み、日系中小企業を対象としたインバウンドマーケティング導入をサポート。同社にてIR、マーケティング、海外コミュニケーションに関するブログ記事の企画、執筆、編集を担当。現在は、インドにてIT・マーケティングを中心にフリーライターとして執筆活動中。
