人工知能とライターは共存できるのか?コンテンツ東京2016セミナーレポート

人工知能とライターは共存できるのか?コンテンツ東京2016セミナーレポート

2016年7月1日に東京ビックサイトで開催された「コンテンツ東京2016」(主催:リード エグジビジョン ジャパン株式会社)に、PENYA編集部の取材班として潜入してきました!

前回の「【イベントレポート】コンテンツ東京 2015『クリエイターEXPO』に行きました!」から1年がたち、コンテンツ東京にも新しい波がやって来ました。
それは、人工知能(以下、AI)です。いまTV、新聞、Webなどの多くのメディアはAIの話題で持ち切りですが、コンテンツ東京2016でも、「AI・人工知能ワールド」が特設されていました。

さまざまなAIに関する最新技術の展示がおこなわれ、とても面白いのでそちらもレポートしたいところですが、それは「『愛を持つAI』とは? 実用レベルのAIやVRが勢揃いした『コンテンツ東京』レポート」(gamesindustry.biz)に譲るとして、ここではAIが我々ライターの仕事にどう関わってくるようになるのかについて注目してみます。

私は、「AIがライターの仕事が奪う!?人工知能による文章作成はココまでできている」の最後に、「人間のライターはどのような能力を伸ばしていくと人工知能と共存できるか」ということを書きました。
「コンテンツ東京2016」の「AI・人工知能でコンテンツ制作はどう変わる?~人工知能とクリエイターが共存共栄する未来~」は、まさに「ライターと人工知能が共存する未来」をテーマにしたセミナーです。登壇者の徳井直生さんは、(株)Qosmo代表取締役CEOであり工学博士。ライゾマティクスの真鍋大度さんと一緒にAIがDJになる音楽イベント「2045」を開催したり、ディープラーニングを用いた映像作品の制作で注目を集めている方です。

AIは「間違える」。そこに可能性がある

徳井さんは、まず1枚の写真を見せてくれました。それは「黒人の兵士が四つんばいで映っている」写真です。AIはこれを「椅子の写真」と判断したそうです。さまざまな写真で学習したAIにとっては、四つの足があるものは、全て「椅子」に見えてしまうのです。

もちろん、人間の上にも座ろうと思えば座れますが、普通我々は四つんばいになっている人間を見て椅子だと思いません。それは、「良心」があったり、コンテクストを踏まえて理解しているからだと徳井さんは言います。ところが、AIには人間のロジックは関係なく、見た目の形が似ていれば同じ「椅子」と認識する。それを「間違い」だ、なんて認識力が悪いのだと批判するのは簡単ですが、「見間違い、見立てこそがクリエイティビティの源泉だ」と指摘していました。

たとえば、「月の模様をうさぎに見立てる」ということを人間も昔からやってきました。新しいクリエイティブを生むためには、AIが「面白い間違い」を起こしやすくするにはどうしたらいいのか? という問いを立てるのが重要なのだそうです。

AIカラオケプロジェクトとは?

「AIにカラオケの映像から歌詞を作らせよう」。このトンデモな企画のインスピレーション源となったのは、80年代、90年代のレーザーカラオケ。松田聖子や米米クラブが歌うカラオケの映像には、歌詞と関係のない映像が延々と続いていることに着目し、AIが認識した映像とJ-POPの歌詞から抜粋した特徴ワードを自動で組み立てることで、全然関係のない映像に歌詞を自動でつけるプロジェクトを企画したそうです。

ギターを弾いている映像があれば、関連語句から「メロディー」という単語を抽出、J-POPの歌詞から「愛のメロディー」というフレーズを見つけ出し、
さらにヨミガナから韻をふむことで、「愛のメロディー雨のキャンディー」と生成できるとのことです。

このプロジェクトのキモは「AIがリアルタイムで生成した文字に、人が合わせて歌う」ところ。

これは、一度試してみないと面白さが十分に伝わらないのですが、映し出された映像に、近からず遠からずの歌詞がその場で出現し、それを必死で歌っている自分を想像しただけで楽しそう!と思えてきました。

詳しくは、「人工知能(無能?)カラオケ!! – 畳み込みニューラルネットワークによる動画の情景解析に基づく歌詞の自動生成」に掲載されています。

会場の雰囲気を読み取ってAIが選曲

音楽のビックデータを用いて、AIが選曲したDJイベントを開催した話も出ました。開催内容は、「DJは人工知能に淘汰されるのか?真鍋大度らの実験的イベント『2045』」(SENSORS)に掲載されています。

このイベントで選曲を担ったのはDJ本人ではなく、DJのスタイルを模倣したアルゴリズムです。参加者が専用のアプリをインストールし、プレイリストに登録している内容を共有すると、人気のある楽曲をAIが読み取ります。
そして、さまざまなセンサーを組み合わせることで、会場の雰囲気に合わせて適切な音楽を選定したのだそうです。

また、徳井さん人間とAIによる「バック・トゥ・バック」を実現するという実験的なプロジェクトも進めているそうです。「バック・トゥ・バック」とは、2人のDJが左右のターン・テーブルを担当し、交互に曲をかけるプレイスタイルです。これをロボットと一緒に行う夢を目指して日々実験を行っているとのことです。ロボットDJ vs人間DJ。これは絶対見てみたい! と思ったので、ぜひ精密な機械制御が出来るエンジニアと組んで、実現して欲しいです。

カメラと画家の相互作用

今回のセミナーで私が新しい視点をもらったのが、「カメラと画家」の話です。
カメラによって自動で絵を残すことができるようになった結果、目にどう写ったかを描く写実画ではなく、心にどう写ったかを描く印象画が誕生しました。
そして、逆に印象画に影響をうけた写真家が登場したり、写真から更に影響を受けてハイパーリアリスティックな絵に向かう画家があらわれたりと、カメラというテクノロジーと画家が相互作用を展開してきた歴史があるとのことです。

写真の登場によって、肖像画を描く職業画家のなかには仕事を失った人もいるが、逆に表現の幅を広げ、これまでにないクリエイティブな力を発揮した人もいるというのは、人とAIとの関係を考えるうえで、とても希望が持てる話だと思います。AIを通して、新しい気づきや視点が得られ、表現の幅が広がっていく。人とAIが歩み寄ってお互いに影響を与え合うことで、人間だけではたどり着けなかった豊かなクリエイティブが生み出されるはずです。

AIと共存するとは、「良き編集者になる」ということ

最後に、徳井さんから、AIと付き合うための3つのヒントを教えていただきました。

  1. 既知を未知とする/コントロールを手離す=移譲する
  2. 勘違いを許容する/人のロジックとの異質さを大事にする
  3. 量が質になる

1番目は、「AIカラオケプロジェクト」のように「すでにある歌詞を『知らないもの』として捨て、AIに作らせてみたこと」。

2番目は、「AIの『間違い』を切り捨てるのではなく、人との異質さから新しい視点を考えること」。

3番目は、「AIが生成したものを評価し、繰り返しやらせること」をそれぞれ指しています。

この3カ条は、編集者とライターの関係に似ています。仕事を任せる。間違えを許容し、むしろ新しい気づきを得る。ライターの癖を理解しながら、結果を評価し、粘り強くチャレンジさせる。AIと共存できるかは、自分が良き編集者になるということと、本質的には同じなのではないかと思いました。

我々ライターにとって、AIに仕事を奪われてしまう未来はどんどん近づいているのかもしれません。しかし、カメラの発明後に印象派の画家があらわれたように、人間のライターとAIライターがお互いに影響しあうことで、まったく新しいスキルを持ったライターが誕生するのではないか? とも考えられます。
私自身はライターであり、技術者でもあるので、今後、AIを使ったライティングを実験してみたいと思っています。実験結果のレポートに乞うご期待。

 

著者プロフィール

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三上 悟
東京生まれ、東京育ち、地方の美大卒。複数のベンチャー企業でプログラマーとして活躍。2014年4月にInnovaに入社。PENYAを裏で支えるWEB系エンジニア。休日は、ピラティスで体を鍛え、読書が好きな、女子力高めの独身男子。チョコレートと珈琲が好き。

 

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