マウスウォッシュだけで安心していませんか?お皿洗いで考える口内ケア

疲れた夜、歯ブラシを持つ気力がなくて、マウスウォッシュでぐちゅぐちゅペッ。
わかります、私も昨夜はその誘惑と戦いました。
口腔ケアアドバイザーで歯科衛生士の柚木葉子です。

先に結論を言うと、マウスウォッシュだけでは歯の汚れは落ちきりません。
この記事では、その理由をお皿洗いにたとえてお話しし、ズボラでも続けられる現実的なケアの組み立て方をお伝えします。

マウスウォッシュだけでは汚れが落ちない理由

油汚れのお皿を水に浸けても、ヌルヌルは残る

カレーを食べたあとのお皿を思い浮かべてください。
水を張って一晩置いても、指でなぞるとヌルッとした膜が残っていますよね。
スポンジでこすって、ようやくキュッと鳴るお皿に戻ります。

歯の表面につく汚れも、あのヌルヌルとよく似ています。
歯科ではプラークと呼びますが、私は患者さんに「細菌の塊うんち」と説明しています。
ちょっと品のない呼び方ですが、一度聞くと忘れないようで、翌月の歯みがきが見違える方が多いんです。

厚生労働省のe-ヘルスネット「プラーク(歯垢)」によると、プラーク1mgの中には10億個以上の細菌がいて、食後数時間でできはじめます。
しかも粘着力があって水に溶けないため、うがいだけでは取り除けないと書かれています。
マウスウォッシュも液体でゆすぐ以上、このヌルヌルをこすり落とす力はありません。

日本歯科医師会も「補助的なツール」と位置づけている

「でも薬用って書いてあるし、殺菌してくれるんでしょう?」という声もよく聞きます。
殺菌成分が入っている製品は確かにあります。

ただ、日本歯科医師会の液体ハミガキと洗口液の違いというページでは、洗口液はこれだけでプラークを除去できるわけではなく、あくまで歯みがきの補助的なツールだと説明されています。
お皿洗いで言えば、除菌スプレーをシュッとかけただけで食器棚にしまうようなものです。
表面の菌は多少減っても、油膜の下に隠れた汚れはそのまま残ります。

歯と歯茎の隙間ポケットの奥までは届かない

もうひとつ知っておいてほしいのが、歯と歯茎の隙間ポケット(歯周ポケット)のことです。
歯周病の原因菌は、この隙間の奥にたまった汚れの中に多く住んでいます。

日本歯周病学会誌に掲載された、歯科衛生士向けの洗口剤の解説では、洗口によって薬剤が作用するのはポケット内の0.5mm程度までとされています。
ポケットが深くなっている人ほど、ゆすぐだけのケアでは奥の汚れに手が届きません。
コップの底にこびりついた汚れに、水を注いで振っても取れないのと同じです。

お皿洗いに置き換えると、道具の役割が見えてくる

歯ブラシはスポンジ、フロスは隙間用の細いブラシ

台所にはスポンジのほかに、水筒の底を洗う柄付きブラシや、フォークの間をこする細いブラシがありますよね。
口の中の道具も、それぞれ得意な場所が違います。

台所の道具口内ケアの道具担当する場所・役割
スポンジ歯ブラシ歯の表面と、歯と歯茎の境目の汚れをこすり落とす
隙間用の細いブラシデンタルフロス・歯間ブラシ歯と歯の間など、スポンジが入らない場所の汚れをかき出す
洗剤歯みがき粉こする作業を助け、歯の強化コーティング(フッ素)を届ける
除菌スプレーマウスウォッシュ洗ったあとの仕上げ。菌を減らし、汚れがつき直すのを遅らせる

こうして並べると、マウスウォッシュが「洗う係」ではなく「仕上げ係」だとわかります。
主役はあくまでスポンジ役の歯ブラシです。

スポンジだけだと、歯と歯の間は6割しか落ちない

では、歯ブラシさえしっかりやれば十分かというと、そうでもありません。
ライオン歯科衛生研究所の歯と歯の間のケア方法では、歯と歯の間のプラークは歯ブラシだけだと60%程度しか取れず、フロスや歯間ブラシを併用すると90%近くまで取れると紹介されています。

フォークの歯の間を、平たいスポンジだけで洗っている状態を想像してみてください。
表面はピカピカでも、隙間には昨日のミートソースが残っています。
虫歯が歯と歯の間にできやすいのも、ここが洗い残しの定位置だからです。

パティシエ見習いだった20代の私は、まさにこの状態でした。
試食のたびに歯ブラシだけはしていたのに、1年で8本の虫歯ができてしまったんです。
今思えば、スポンジで表面をなでて満足していたんですよね。

マウスウォッシュは「仕上げの除菌スプレー」

ここまで読むと「じゃあマウスウォッシュは要らないの?」と思われるかもしれません。
そんなことはなくて、役割を正しく任せれば、ちゃんと頼れる相棒です。

同じ日本歯周病学会誌の解説でも、洗口剤は歯ブラシなどでこすり落とすケアの補助として、その効果を高めて長持ちさせるために使うものだと整理されています。
しっかり洗ったお皿に除菌スプレーをかけると、次に使うまで清潔が長持ちします。
順番を逆にしなければ、マウスウォッシュはちゃんと働いてくれます。

マウスウォッシュが本当に頼りになる場面と使い方

歯みがきできない日の「つなぎ」として

日本歯科医師会のページでは、ブラッシングの時間がないときは、洗口液を使うだけでも多少は汚れを落とせるとも書かれています。
「補助」ではあっても「ゼロ」ではないということです。

私がマウスウォッシュをおすすめしているのは、たとえばこんな場面です。

  • 職場のランチのあと、歯みがきできる場所がない
  • 外出先や移動中で、洗面所を使いにくい
  • 体調を崩して寝込んでいて、歯ブラシを口に入れるのもつらい
  • 夜中に目が覚めて、口の中のネバつきが気になる

どれも「今日は洗えないから、せめて軽く流しておこう」という場面ですね。
つなぎとして使い、次に落ち着いて洗えるときに、歯ブラシとフロスで本洗いをしてください。

歯みがき直後より、少し時間をあける

意外と知られていないのが、歯みがきとの間隔です。
歯みがき直後にすぐマウスウォッシュを使う方は多いのですが、実はもったいないことがあります。

日本歯周病学会誌の解説によると、歯みがき粉に含まれる泡立ちの成分や研磨剤は、CPC(塩化セチルピリジニウム)などプラスの電気を帯びた殺菌成分の働きを弱めてしまいます。
また、歯みがき粉の歯の強化コーティング(フッ素)を歯に残すためにも、歯みがき直後の洗口は避け、約30分あけるのが望ましいとされています。

洗剤で洗ったお皿に、泡が残ったまま除菌スプレーをかけても効きが悪いのと同じ理屈です。
30分も待てないという方は、歯みがきの時間とずらして、昼や外出前など別のタイミングに回すのが現実的です。

使ったあとは水ですすがない

もうひとつの落とし穴が、使ったあとのすすぎです。
ミントがスースーするので、つい水でゆすぎたくなりますよね。

日本歯科医師会のページでは、水ですすぐと有効成分が流れてしまうため、なるべくすすがない方がよいと説明されています。
除菌スプレーをかけた直後に、水道でジャーッと流すようなものです。
ぐちゅぐちゅペッのあとは、そのまま終わりにしてください。

アルコール入りの製品でヒリヒリする方もいます。
日本歯周病学会誌の解説では、アルコールを含む製品の副作用として口の乾きや味覚の違和感が挙げられています。
刺激が苦手な方や口が乾きやすい方は、ノンアルコールと書かれたものを選ぶと続けやすいですよ。

ズボラさんでも続く「70点」の口内ケア

夜だけは3ステップで洗う

新人のころ、患者さんに完璧な歯みがきを求めすぎて「息が詰まる」と言われ、担当を外されたことがあります。
それ以来、「70点でいいから毎日続けられる形」を一緒に探すようにしています。

お皿洗いも、毎食後に完璧を目指すと疲れてしまいます。
一日一回、夜にまとめてきちんと洗えば、台所はなんとか回りますよね。
口の中も同じで、夜だけ次の3ステップをやってみてください。

  1. 歯ブラシで、歯の表面と歯茎との境目を小刻みに磨く
  2. フロスか歯間ブラシで、歯と歯の間の汚れをかき出す
  3. 泡を吐き出したら、水でのゆすぎは軽めにして終わる

夜を大事にするのは、寝ている間は唾液が減って、口の中の汚れが流されにくくなるからです。
フロスは最初、全部の歯でなくてかまいません。
食べ物がよく挟まる奥歯の1か所からで十分です。

朝と昼はマウスウォッシュに頼っていい

夜に本洗いができていれば、朝と昼はもう少し肩の力を抜いて大丈夫です。
私のおすすめの組み合わせを表にしてみました。

時間帯最低限やること余裕がある日
朝歯ブラシでさっと磨く舌の汚れも軽くチェック
昼マウスウォッシュでぐちゅぐちゅペッ歯ブラシで磨く
夜フロス+歯ブラシの3ステップ鏡を見ながら磨き残しを確認

昼のマウスウォッシュは、まさに「つなぎ」の出番です。
朝と夜の歯みがきから時間があいているので、先ほどの30分ルールも自然に守れます。

私自身、激辛料理と堅焼きせんべいが大好きで、外で食べ歩く日も多いんです。
そういう日はバッグに小さなボトルを入れておき、食後にささっと使います。
そのかわり、帰宅したら着替えより先に洗面所へ向かうのが、私の70点ルールです。

歯医者さんに相談したいサイン

どんなに上手にお皿を洗っていても、長年使った鍋には焦げつきが残ります。
口の中も、固まってしまった歯石は自宅のケアでは落とせません。

次のような様子があれば、マウスウォッシュでごまかさず、一度歯科医院で相談してみてください。

  • 歯みがきやフロスのたびに出血する状態が続いている
  • マウスウォッシュを使っても、口のにおいがすぐ戻ってくる
  • 同じ場所ばかり、食べ物がよく挟まる
  • 冷たいものや甘いものがしみる

歯医者さんは、痛くなってから駆け込む場所ではありません。
焦げついた鍋を業者さんにピカピカにしてもらうような気持ちで、気軽に使ってほしいと思っています。

まとめ

マウスウォッシュは、口の中の「除菌スプレー」です。
ヌルヌルした細菌の塊うんちは水に溶けないので、歯ブラシとフロスでこすり落とすのが本洗いになります。

  • マウスウォッシュだけでは、プラークはほとんど落ちない
  • 歯ブラシはスポンジ役、フロスは隙間用ブラシ役。両方そろって90%近くまで落とせる
  • マウスウォッシュは歯みがきから時間をずらし、使ったあとは水ですすがない
  • 夜だけ本洗い、朝と昼はゆるめの「70点ケア」で十分続けられる

お口の健康は、人生の「おいしい」を守ること。
完璧じゃなくていいんです。
昨日の自分より、一本だけ丁寧に磨ければ。

まずは今夜、奥歯の1か所だけフロスを通してみてください。
それだけで十分偉いです!