ドラッグストアの歯磨き粉コーナーの前で、5分くらい固まったことありませんか。
わかります、私もあの棚の前では未だに迷子になります(お店の中でも迷子になるのに、棚の前でも迷うんです)。
「歯磨き粉 おすすめ」で検索すると、ランキング記事がずらっと出てきますよね。
でも1位の商品を買ってみたのに、なんだかピンとこない。
そんな経験をお持ちの方にこそ、今日の話を聞いてほしいんです。
申し遅れました、歯科衛生士の柚木葉子と申します。
20代の頃はパティシエを目指していたのですが、毎日の試食がたたって1年で8本の虫歯を作り、歯科医院の椅子の上で人生を考え直した人間です。
それから歯科衛生士になって18年、延べ5万人以上のお口を見てきました。
その経験から先にお伝えしたいのは、歯磨き粉選びで大事なのは「人気があるか」ではなく「あなたの悩みに合っているか」だということ。
この記事を読み終わる頃には、ランキングに頼らなくても、パッケージの裏を見て自分で選べるようになっています。
どうぞ肩の力を抜いて、お付き合いくださいね。
目次
おすすめランキングを見る前に。歯磨き粉選びでいちばん大事なこと
具体的な成分の話に入る前に、ひとつだけ土台の話をさせてください。
ここが腑に落ちると、この先の選び方がぐっとラクになります。
「みんなのおすすめ」があなたに合うとは限らない理由
歯磨き粉って、実は「万能選手」ではなく「専門職」なんです。
虫歯予防が得意な子、歯ぐきのケアが得意な子、しみるのを和らげるのが得意な子と、それぞれ役割が分かれています。
だから、虫歯になりやすい人に大人気のホワイトニング系歯磨き粉を渡しても、いまいち活躍できません。
料理でいえば、カレーを作りたいのにお寿司の名店のレシピを参考にしているようなものです。
どちらも素晴らしいけれど、目的が違うんですね。
ランキング記事が悪いわけではありません。
ただ、順位は「あなたの口の中」を見て付けられたものではない。
その前提だけは、頭の片隅に置いておいてほしいのです。
歯磨き粉は「調味料」、主役はあくまで歯磨き
もうひとつ、耳の痛い話をやさしくさせてください。
どんなに高級な歯磨き粉を使っても、磨き方が雑なら汚れは落ちません。
お皿洗いを思い出してみてください。
高い洗剤をかけただけで、スポンジでこすらずに済むお皿ってないですよね。
歯磨きも同じで、汚れを落とすのはあくまで歯ブラシの毛先、歯磨き粉はその働きを助ける調味料のような存在です。
とはいえ「じゃあ歯磨き粉は何でもいい」とはなりません。
調味料が変わると料理の仕上がりが変わるように、歯磨き粉に入っている成分次第で、虫歯や歯ぐきトラブルの予防効果は確実に変わります。
主役はブラッシング、でも名脇役は選び抜く。
これが18年やってきた私の結論です。
まず自分の「お口の悩み」をひとつだけ決める
では何を基準に選ぶか。
最初にやることは、商品を見ることではなく、自分の口の中に聞くことです。
- 甘いものが好きで、虫歯になりやすい
- 歯ぐきから血が出る、腫れぼったい感じがする
- 冷たい水がキーンとしみる
- コーヒーや紅茶の着色が気になる
この中から「いちばん気になるものをひとつ」だけ選んでください。
欲張ってぜんぶ解決したくなる気持ち、よくわかります。
でも全部盛りを狙うと選択肢がぼやけてしまうので、まずは一点突破がおすすめです。
パッケージの裏が読めるようになる。歯磨き粉の中身をざっくり解説
悩みが決まったら、次はパッケージの裏を読む練習です。
と言っても、覚えることは3つだけ。
成分表の全部を理解する必要はまったくありません。
「医薬部外品」と「化粧品」、どこで見分ける?
歯磨き粉は法律上、「医薬部外品」と「化粧品」の2種類に分かれています。
ざっくり言うと、医薬部外品は「予防効果のある薬用成分」が入っているもの、化粧品は「汚れを落としてお口をさっぱりさせる」基本機能のものです。
見分け方は簡単で、パッケージのどこかに「医薬部外品」と書いてあるかどうか。
日本歯磨工業会のQ&Aによると、医薬部外品の歯磨き粉は安全性や有効性について国の承認を得たうえで販売されています。
虫歯や歯周病を予防したいなら、まず「医薬部外品」の表示を探す。
これが第一関門です。
どの歯磨き粉にも入っている基本の成分
医薬部外品でも化粧品でも、ベースになる成分はだいたい共通しています。
汚れを落とすのを助ける清掃剤(研磨剤とも呼ばれます)、泡立たせて成分を口中に広げる発泡剤、ペースト状を保つための粘結剤や湿潤剤、味を整える香味剤。
このあたりは、料理でいう「だし・塩・みりん」のような土台部分です。
ひとつだけ補足すると、泡立ちのよさと汚れ落ちは比例しません。
泡がモコモコだと磨けた気分になりますが、あれは気分だけのこともあります。
泡で満足して30秒で切り上げるくらいなら、泡少なめでじっくり磨くほうがずっといいですよ。
悩みを解決するのは「薬用成分」
そして本命が、医薬部外品にだけ入っている薬用成分です。
虫歯予防のフッ素(私は「歯の強化コーティング」と呼んでいます)、歯ぐきの炎症を抑える成分、しみるのをブロックする成分など、あなたの悩みに直接働きかけてくれるのはこの子たちです。
つまり歯磨き粉選びとは、突き詰めれば「自分の悩みに合う薬用成分が入った医薬部外品を探すこと」。
次の章で、悩み別にそのまま使える成分名をお伝えしますね。
【悩み別】あなたの口に合う歯磨き粉の選び方
ここからが本題です。
さきほど決めた「いちばんの悩み」の項目だけ読んでいただいても構いません。
全部覚えなくて大丈夫、スマホでこのページを開いたままお店に行けばいいんですから。
まずは全体像を表にまとめます。
| お口の悩み | 探す薬用成分 | 働き |
|---|---|---|
| 虫歯が心配 | フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム | 歯の修復(再石灰化)を助け、歯質を強くする |
| 歯ぐきの腫れ・出血 | IPMP、CPC+トラネキサム酸、β-グリチルレチン酸 | 細菌を殺菌し、炎症を鎮める |
| 冷たいものがしみる | 硝酸カリウム、乳酸アルミニウム | 刺激の伝わりをブロックする |
| 着色・ヤニ | ポリリン酸ナトリウム、PEG | 着色汚れを浮かせて落とす |
虫歯が心配な人はフッ素濃度「1450ppm」をチェック
虫歯予防の王様は、なんといってもフッ素です。
成分表では「フッ化ナトリウム」や「モノフルオロリン酸ナトリウム」と書かれています。
ここで見てほしいのがフッ素の濃度、「ppm」という数字です。
日本口腔衛生学会や日本小児歯科学会など4学会の合同提言では、6歳以上から大人まで、1400〜1500ppmのフッ素濃度が推奨されています。
市販品なら「1450ppm」と書かれたものがこれに当たります。
日本では長らく1000ppm前後が主流だったので、昔から同じ歯磨き粉を使い続けている方は、一度パッケージを確認してみてください。
数字が書いていない、または低めだった場合、1450ppmに替えるだけで虫歯予防のレベルがひとつ上がります。
なお6歳未満のお子さんは推奨濃度も使う量も変わるので、大人用との共用は避けてくださいね。
歯ぐきの腫れ・出血が気になる人は殺菌成分+抗炎症成分
歯磨きのたびに血がにじむ、歯ぐきがむずむずする。
そんな方は、歯周病ケア系の成分を探しましょう。
ポイントは「原因菌をやっつける成分」と「炎症を鎮める成分」の2段構えになっているかです。
殺菌成分の代表はIPMP(イソプロピルメチルフェノール)とCPC(塩化セチルピリジニウム)。
特にIPMPは、歯にべったり付いた細菌の塊(専門用語でプラーク、私は「細菌の集合住宅」と呼んでいます)の内部まで浸透して殺菌してくれる頼もしい子です。
炎症を鎮める側では、トラネキサム酸やβ-グリチルレチン酸が代表選手です。
歯ぐきの出血や腫れに直接アプローチしてくれます。
パッケージの成分欄でこの2チームがそろっていたら、歯ぐきケアとしては合格点だと思ってください。
ただし、ひとつだけ約束してほしいことがあります。
歯ぐきからの出血が2週間以上続くなら、歯磨き粉でがんばる前に歯科医院へ。
歯磨き粉は予防の道具であって、進んでしまった歯周病を治すお薬ではないんです。
冷たいものがしみる人は知覚過敏ケア成分
かき氷や冷たい麦茶でキーンとくる、あの痛み。
知覚過敏の可能性が高いですが、これにも専用の成分があります。
覚えてほしいのは硝酸カリウムと乳酸アルミニウムの2つです。
硝酸カリウムは、歯の神経が「痛い!」と騒ぐのをなだめてくれる比較的即効タイプ。
乳酸アルミニウムは、刺激の通り道になっている歯の表面の小さなトンネル(象牙細管といいます)にフタをしてくれる、じわじわ効くタイプです。
即効タイプと持続タイプ、両方入っている製品もあります。
効き方には個人差があって、数週間使い続けてやっと落ち着く方も多いので、1本使い切るつもりで気長に付き合ってあげてください。
それでもしみるのが続くときは、虫歯や歯のひび割れが隠れていることもあるので、こちらも歯科医院で一度見てもらうと安心です。
着色・ヤニが気になる人は「削らず落とす」成分
コーヒー、紅茶、赤ワイン。
おいしいものほど、歯に色を置いていくんですよね(激辛料理ばかり食べている私が言うのもなんですが、カレーもなかなかの強敵です)。
着色対策で探したいのは、ポリリン酸ナトリウムやPEG(ポリエチレングリコール)といった成分です。
ポリリン酸ナトリウムは着色汚れを浮かせて落としつつ、歯の表面をコーティングして再付着まで防いでくれます。
PEGはタバコのヤニのような油っぽい汚れを溶かして落とすタイプです。
ここで注意してほしいのが、「研磨剤たっぷりでゴシゴシ削って白くする」タイプとの付き合い方。
換気扇の油汚れを金属タワシでこすり続けたら、いつか塗装まで剥げますよね。
歯も同じで、粗い研磨剤で強く磨き続けると表面に細かい傷がつき、かえって着色しやすくなることがあります。
「削って白く」より「浮かせて落とす」を選ぶのが、長い目で見たときの正解です。
それから、市販の歯磨き粉で落とせるのは表面の着色汚れまで。
歯そのものの色を白くしたい場合は、歯科医院のホワイトニングという別のメニューになります。
そこは混同しないでおきましょうね。
せっかく選んだ歯磨き粉を無駄にしない使い方
自分に合う1本を選べたら、最後は使い方です。
実はここが、もったいない人がいちばん多いポイント。
高い歯磨き粉を買うより、今日からタダでできる話なので、ぜひ持ち帰ってください。
量は「歯ブラシ全体にたっぷり」が今の常識
「歯磨き粉は少量でいい」と教わった記憶、ありませんか。
実はあれ、今では古い情報になりつつあります。
先ほどの4学会合同提言では、6歳以上は歯ブラシ全体(1.5〜2cm)にのせるのが推奨量とされています。
フッ素は口の中にある程度の量がないと働けないので、ちょこんと乗せるだけでは力を発揮できないんです。
ケチらず、たっぷり。
歯磨き粉は貯金しても増えません。
うがいは少量の水で1回だけ
そしてこれが、今日いちばんお伝えしたかった話かもしれません。
歯磨きのあと、コップにたっぷりの水で何回もブクブクしていませんか。
それ、せっかくのフッ素をぜんぶ排水口に流しています。
お風呂上がりに保湿クリームを塗って、直後にもう一度シャワーで流すようなものです。
ライオン歯科衛生研究所の解説では、歯磨き後のうがいは5〜15ml程度の少量の水で1回だけ、5秒ほどが目安とされています。
15mlというと、おちょこ1杯くらい。
最初は「口の中に味が残って気持ち悪い」と感じるかもしれませんが、その残った感じこそフッ素が働いている証拠です。
1週間もすれば慣れますから、だまされたと思って試してみてください。
寝る前の歯磨きをいちばんていねいに
もし1日の歯磨きに優先順位をつけるなら、私は迷わず「寝る前」に一票です。
寝ている間は唾液の量がぐっと減ります。
唾液はお口の中のお掃除係なので、これが減る夜は細菌たちの宴会タイム。
だからこそ、寝る前に汚れをしっかり落とし、フッ素を口の中に残したまま眠るのがいちばん効率的なんです。
朝は忙しくて30秒で終わっても、まあ仕方ない日もあります。
その代わり夜だけは、テレビでも観ながらでいいので、少しだけ長く磨いてあげてください。
磨き終わったあとのうがいは、もちろん少量の水で1回だけですよ。
まとめ
長い時間お付き合いいただき、ありがとうございました。
最後に、今日の話を3ステップに整理しますね。
- 自分のお口の悩みを「ひとつだけ」決める
- その悩みに合う薬用成分が入った「医薬部外品」を選ぶ
- たっぷり使って、うがいは少量の水で1回だけ
ランキングの1位を追いかけるより、この3つのほうがよほどあなたの歯を守ってくれます。
虫歯だらけでパティシエの夢を諦めた私が、いま激辛料理も堅焼きせんべいも楽しめているのは、特別な歯磨き粉のおかげではなく、自分の口に合ったケアを続けてきたからです。
お口の健康は、人生の「おいしい」を守ること。
完璧じゃなくていいんです。
まずは今夜、洗面台にある歯磨き粉のパッケージ裏を眺めて、フッ素の濃度を確認するだけやってみてください。
それだけで十分偉いです!