歯ブラシだけでも正直めんどくさいのに、タフトブラシまで増やすんですか。
そう思った方、たぶん正常です。
洗面台に歯ブラシ、歯磨き粉、フロス、歯間ブラシ。
そこへさらに小さいブラシが仲間入りすると、「もう歯みがき道具の大家族じゃないですか」と言いたくなりますよね。
私もズボラな日があります。
部屋の片づけは苦手ですし、歯科衛生士だからといって毎晩キラキラした気持ちで歯を磨いているわけではありません。
はじめまして。
口腔ケアアドバイザーの柚木葉子です。
昔はパティシエ見習いとしてお菓子に囲まれて働き、1年で8本の虫歯を作ったことがあります。
甘いものが好きなのに、噛むのが怖い。
あの時期は、今思い出しても胸のあたりが少し重くなります。
先に結論を言いますね。
タフトブラシは、全員に必ず必要な道具ではありません。
でも、奥歯のいちばん後ろ、親知らずのまわり、歯並びの段差、矯正装置のすき間のような「普通の歯ブラシが入りにくいすみっこ」がある人には、かなり頼れる道具です。
お部屋の掃除でいうと、床全体は掃除機、部屋の角は小さいブラシ。
そんな役割分担です。
歯みがきを完璧にするための道具ではなく、いつも残る場所を少し助ける道具。
今日はそのくらいの温度で読んでください。
目次
タフトブラシは「全部磨く道具」ではなく「すみっこ担当」
普通の歯ブラシが得意な場所
まず、毎日の主役は普通の歯ブラシです。
ここは変わりません。
歯の表側、裏側、噛む面。
広い面をまんべんなく磨くには、普通の歯ブラシが向いています。
ライオン歯科衛生研究所の歯ブラシに関する解説でも、歯ブラシは歯の表面についたプラークなどを毛先で取り除く清掃用具として説明されています。
プラークは、私は患者さんに「細菌のぬめり汚れ」とお伝えすることが多いです。
排水口のぬめりを水だけで流しても残るように、歯のぬめり汚れも毛先で触らないと落ちにくいんです。
だから、タフトブラシを買ったからといって、普通の歯ブラシを卒業するわけではありません。
ごはん作りでいうなら、包丁を持っているからピーラーはいらない、とはならないですよね。
どちらにも向いている仕事があります。
タフトブラシが入りやすい場所
タフトブラシは、毛束が小さくまとまった歯ブラシです。
ワンタフトブラシと呼ばれることもあります。
「タフト」は毛束のことなので、ざっくり言えば、小さい毛束で狙って磨くブラシです。
得意なのは、普通の歯ブラシのヘッドが大きくて入りにくい場所。
たとえば、こんなところです。
- 奥歯のいちばん後ろ
- 親知らずの頭が少しだけ出ている場所
- 歯並びが重なっている段差
- 矯正装置のまわり
- ブリッジやインプラントの周辺
- 子どもの生えたての奥歯の溝や後ろ側
このあたりは、歯ブラシを動かしているつもりでも毛先が届いていないことがあります。
診療室で染め出しをすると、本人は毎日磨いているのに、奥歯の後ろだけ赤く残る。
本当に多いです。
サボっているのではなく、道具の形がその場所に合っていないこともあります。
フロスや歯間ブラシとは役割が違います
タフトブラシを、フロスや歯間ブラシの代わりにしようとする方がいます。
気持ちはわかります。
道具は少ないほうが楽ですから。
でも、ここは少し分けて考えたいところです。
歯と歯のきついすき間はフロスが得意です。
歯ぐきが下がって少し広くなったすき間は、サイズの合う歯間ブラシが入りやすいことがあります。
タフトブラシは、歯と歯の間にグイッと通す道具というより、見えているすみっこを外側からなでる道具です。
英国の口腔保健団体による歯と歯の間の清掃についての解説では、歯ブラシが届きにくい歯間部の汚れを落とすために、歯間ブラシやフロスを使う考え方が紹介されています。
また、英国の公的医療情報サイトによる歯を清潔に保つ方法でも、歯間ブラシやシングルタフトブラシを、状態に合わせて使う選択肢として触れています。
つまり、タフトブラシは「これ一本で全部解決」の道具ではありません。
台所でいうなら、スポンジ、細いブラシ、布巾を場所で使い分ける感じです。
全部スポンジで済ませようとすると、蛇口の根元に汚れが残りますよね。
お口の中にも、そういう小さな根元があります。
タフトブラシが向いている人
奥歯のいちばん後ろがいつもザラつく人
舌で奥歯の後ろを触ったとき、なんとなくザラザラする。
歯科医院で「奥が残りやすいですね」と言われたことがある。
このタイプの方は、タフトブラシを試す価値があります。
奥歯の後ろ側は、鏡でも見えにくく、歯ブラシも入りにくい場所です。
特に下の奥歯の後ろは、頬や舌が邪魔をします。
大きな歯ブラシでがんばると、頬に当たって痛いだけで、肝心の毛先は届いていないこともあります。
タフトブラシなら、小さい毛先を奥歯の後ろにそっと当てられます。
ここで大事なのは、ゴシゴシしないこと。
「当てて、少しゆらす」くらいで十分です。
私はよく、すみっこの粉を小さい刷毛で払うイメージとお伝えしています。
力でこそげ取るのではなく、毛先を置いて細かく動かす。
そのほうが歯ぐきにもやさしいです。
親知らずや歯並びの段差がある人
親知らずが少しだけ顔を出している方。
歯並びが重なっていて、歯ブラシの毛先が入りにくい方。
この場合も、タフトブラシが助けになります。
親知らずは、まっすぐ生えていないことが多いです。
半分だけ歯ぐきにかぶっていたり、斜めに出ていたり。
そこに食べかすや細菌のぬめり汚れがたまると、歯ぐきが腫れたり、口臭の原因になったりします。
ただし、痛みや腫れがあるときに、タフトブラシで無理やり掃除しようとするのはおすすめしません。
押すと余計に痛い。
出血も増える。
そんなときは、道具でがんばる場面ではなく、歯科医院で見てもらう場面です。
歯並びの段差は、たとえるなら家具のすき間です。
掃除機をかけたつもりでも、棚の脚のまわりにほこりが残ることがありますよね。
歯が重なっている部分も同じで、普通の歯ブラシだけでは毛先が滑ってしまうことがあります。
タフトブラシは、その段差にちょんと入れやすい道具です。
矯正中、ブリッジ、インプラント周りを磨きたい人
矯正中の方は、タフトブラシと相性がよいことが多いです。
装置のまわりは、食べかすが本当に残りやすい。
ワイヤーの上下、ブラケットの角、奥歯の装置まわり。
ここは普通の歯ブラシだけだと、どうしても大ざっぱになります。
ブリッジやインプラントの周辺も、形が少し複雑です。
ただ、このあたりは自己流で強くこすりすぎると、歯ぐきに負担が出ることがあります。
歯科医院で「ここはタフトブラシで、この角度から」と一度見てもらうのが安心です。
道具は同じでも、お口の中の形は人によって違います。
私が5万人以上のお口を見てきてつくづく思うのは、同じ磨き方が全員に合うわけではないということ。
正論だけでは続きません。
自分の口の地図に合わせるほうが、ずっと現実的です。
子どもの仕上げ磨きや介護の口腔ケアで細かく見たい人
子どもの仕上げ磨きでも、タフトブラシが役立つことがあります。
特に生えたての奥歯。
まだ背が低く、隣の歯より少し沈んで見える時期があります。
普通の歯ブラシが表面を通り過ぎてしまい、奥歯の溝に毛先が当たりにくいんです。
介護の口腔ケアでも、小さな毛先は助かる場面があります。
口を大きく開けにくい方、頬がこわばりやすい方、奥まで大きな歯ブラシを入れるとつらい方。
そんなとき、小さいブラシなら少しだけ入りやすいことがあります。
ただし、介護では誤嚥や粘膜の傷つきにも気をつけたいところです。
無理に奥まで入れず、本人が苦しそうなら止める。
必要なら歯科衛生士や訪問歯科に相談してください。
がんばる人ほど、つい奥まできれいにしたくなります。
でも、苦しくないこともケアの一部です。
逆に、急いで買わなくてもいい人
普通の歯ブラシとフロスで十分きれいに保てている人
タフトブラシは便利ですが、持ち物を増やせば口の中が自動できれいになるわけではありません。
普通の歯ブラシで全体を磨けていて、フロスや歯間ブラシも無理なく続いていて、歯科医院でも大きな磨き残しを指摘されていない。
そういう方は、急いで買わなくても大丈夫です。
オーラルケアは、道具を増やすほど偉い競技ではありません。
生活に残るかどうか。
ここが大事です。
ライオン歯科衛生研究所の統計では、デンタルフロスや歯間ブラシで歯と歯の間を清掃している人の割合が全体で50.9%と紹介されています。
半分くらいの人が歯間ケアをしている一方で、続けるハードルを感じている人もいるはずです。
まずは基本の歯ブラシを整えて、その次に歯と歯の間のケアを足します。
それでも「いつも同じすみっこが残る」と感じたら、タフトブラシを考える。
この順番で十分です。
力を入れすぎる癖がある人
歯ブラシの毛先がすぐ広がる方は、タフトブラシを使うときも注意が必要です。
小さい毛先で一点を強くこすると、歯ぐきに傷がついたり、痛みが出たりすることがあります。
タフトブラシは、力で勝つ道具ではありません。
むしろ、力を抜くほどよく働きます。
ペンを持つくらいの軽さで持ち、毛先が少ししなる程度。
歯ぐきに刺さる感じがあるなら、角度か力が強いです。
歯みがきで「きれいにしたい」が強い人ほど、手に力が入ります。
その気持ちは、とてもまじめで素敵です。
でも、歯ぐきは根性論に弱いです。
やさしく当てる。
そこだけは、ちょっと職人の目で見てあげてください。
痛みや腫れをごまかす目的で使おうとしている人
歯ぐきが腫れている、噛むと痛い、親知らずのまわりから変な味がする。
こういうときに「タフトブラシでよく掃除すれば治るかな」と考える方がいます。
軽い食べかす詰まりなら、やさしく清掃して楽になることもあります。
でも、痛みや腫れが続くなら別です。
そこには、むし歯、歯周病、親知らずまわりの炎症などが隠れていることがあります。
米国国立歯科・頭蓋顔面研究所のむし歯の進み方に関する解説では、口の中の細菌が糖やでんぷんを使って酸を作り、歯の表面を傷めていく流れが説明されています。
毎日の掃除は予防の土台ですが、できてしまった穴や強い炎症を小さなブラシだけで戻すことはできません。
痛い場所は、掃除で追い込まない。
早めに見てもらう。
これは怖がらせたいのではなく、食べる楽しみを守るための近道です。
使い方は「当てる、ゆらす、なでる」くらいで十分
ペンを持つように軽く持つ
タフトブラシを使うときは、まず持ち方を軽くします。
グーで握ると、力が入りやすいです。
ペンを持つように持つと、細かい動きがしやすくなります。
鏡を見ながら、磨きたい場所に毛先を置きます。
置いたら、ゴシゴシ横に大きく動かさない。
小さくゆらす。
歯の面に沿ってなでる。
目安は、1か所につき5秒から10秒くらいです。
全部の歯をタフトブラシで磨こうとすると疲れます。
続きません。
タフトブラシは、苦手な場所だけでいいんです。
奥歯の後ろは小さく動かす
奥歯のいちばん後ろを磨くときは、口を大きく開けすぎないほうが入りやすいことがあります。
大きく開けると頬が張って、奥にブラシが入りにくくなるんです。
少しだけ口を閉じ気味にして、頬をゆるめる。
これだけで入り方が変わります。
下の奥歯なら、毛先を後ろ側に当てて、円を描くというより小さくコチョコチョ。
上の奥歯なら、頬側の奥に毛先を入れて、歯ぐきに刺さらない角度でなでます。
お皿のふちに残ったソースを、小さいブラシで落とす感じです。
力はいりません。
場所を外さないことのほうが大事です。
歯ぐきに刺さる角度は避ける
タフトブラシでよくある失敗は、歯ぐきに毛先を刺してしまうことです。
特に歯と歯ぐきの境目を狙うとき、角度が立ちすぎるとチクチクします。
チクチクするなら、少し寝かせる。
血が出るなら、力を抜く。
それでも同じ場所から出血が続くなら、歯科医院で見てもらう。
血が出るから全部悪い、という話ではありません。
歯ぐきに炎症があると、やさしく触っただけで出血することもあります。
ただ、毎回同じ場所が痛い、腫れている、においが気になるなら、セルフケアだけで抱え込まないでください。
使う順番は生活に合わせてよい
理屈でいうと、歯間清掃をしてから歯ブラシ、最後に必要な場所へタフトブラシ、という流れはきれいです。
でも、毎日その通りにできる人ばかりではありません。
私は、続く順番を優先していいと思っています。
夜だけ、奥歯の後ろだけ、歯科医院で指摘された場所だけ。
そのくらい小さく始めても、十分前進です。
表にすると、こんな使い分けです。
| 道具 | 得意な場所 | 向いている使い方 |
|---|---|---|
| 普通の歯ブラシ | 歯の表側、裏側、噛む面 | 毎日の全体掃除 |
| フロス | きつい歯と歯の間 | 歯間のぬめり汚れを通して落とす |
| 歯間ブラシ | すき間がある歯間部 | サイズを合わせてすき間を掃除する |
| タフトブラシ | 奥歯の後ろ、段差、装置まわり | 狙ったすみっこを外側からなでる |
全部を毎回完璧に使う必要はありません。
「今日の自分なら、これだけできる」を決めるほうが長続きします。
選び方と交換の目安
毛先は小さめ、やわらかめから始める
初めて買うなら、毛先は小さめ、かたさはやわらかめから始めるのがおすすめです。
小さいほうが奥に入りやすく、やわらかめのほうが歯ぐきへの当たりを調整しやすいからです。
ただし、やわらかければ何でもよいわけではありません。
毛先が寝てしまって、汚れに当たらないほど弱いものだと使いにくいこともあります。
まずは一本試して、奥歯の後ろに当てやすいかを見てください。
買い物で迷ったら、パッケージの言葉より、自分の口に入れたときの感覚です。
大きすぎないか、痛くないか、狙った場所に届くか。
この3つで見れば大丈夫です。
柄の角度は奥歯への入りやすさで選ぶ
タフトブラシには、まっすぐな柄のものと、少し角度がついたものがあります。
奥歯を磨きたい人は、角度つきのほうが入りやすいことがあります。
前歯の裏や歯並びの段差を狙うなら、まっすぐでも使いやすい場合があります。
ここは好みも大きいです。
手の大きさ、口の開き方、頬の張り方で変わります。
ミニチュアの歯ブラシみたいでかわいいから選ぶ、でも入口としては悪くありません。
ただ、かわいさだけで選ぶと奥に届かないことがあるので、最後は機能で見てあげてください。
交換は毛先の広がりを見て判断する
タフトブラシも、毛先が広がったら交換です。
小さいブラシなので、普通の歯ブラシより毛先の乱れが気になりやすいことがあります。
ライオン歯科衛生研究所の歯ブラシ解説では、毛先が開くと歯にきちんと当たりにくくなり、プラークを落としにくくなると紹介されています。
タフトブラシでも考え方は同じです。
毛先が花火みたいに広がっていたら、すみっこを狙えません。
交換の目安は、次のように考えてください。
- 毛先が外側に広がってきた
- 当てたい場所に毛先がまとまって当たらない
- 使っていてチクチクするようになった
- 1か月以上使っていて、毛の弾力が落ちた感じがする
「まだ使えるかな」と迷ったら、私は交換寄りで考えます。
高級な道具を長く使うより、毛先がきちんと働く状態を保つほうが、毎日のケアでは助かります。
まとめ
タフトブラシは、全員に必須の道具ではありません。
普通の歯ブラシ、フロス、歯間ブラシで困っていないなら、急いで増やさなくて大丈夫です。
でも、奥歯のいちばん後ろがいつもザラつく方、親知らずのまわりに食べかすが残りやすい方、歯並びの段差や矯正装置まわりが磨きにくい方には、かなり心強い一本になります。
広い場所を磨く主役ではなく、すみっこ担当。
そう考えると、気持ちが少し楽になります。
最初から全部の歯に使わなくていいです。
まずは今夜、奥歯のいちばん後ろだけ。
5秒だけ毛先を当てて、ゆらして、なでる。
それだけで十分偉いです。
お口の健康は、人生の「おいしい」を守ること。
堅焼きせんべいをバリッと食べられる未来のために、今日のすみっこを一本だけ助けてあげましょう。