ダラダラ食べは「お口の中がずっと酸性雨」。デスクワーク中のチョコが危険なワケ

仕事中に小腹がすいて、デスクの引き出しからチョコをひとつ。気づいたらもうひとつ、またひとつ……。「これ、やばいかな?」と思いながらも手が止まらない、そんな経験、ありませんか?

わかります、すごくよくわかります。私自身、学生時代にパティシエを目指していたころ、毎日の試食と甘いものへの誘惑で1年間に8本の虫歯を作ったという、なかなかに壮絶な過去があります(笑)。

はじめまして。口腔ケアアドバイザーの柚木葉子です。歯科衛生士として18年間、延べ5万人以上の患者さんのお口に向き合ってきました。現在はフリーランスとして、「食べる幸せを守るためのお口のケア」を発信しています。

今日お伝えしたいのは、「間食が虫歯のリスクを高める」という話の、もう少し深いところ。なぜデスクワーク中のダラダラ食べが特に危ないのか、そして「チョコがやめられないんだけど……」というあなたに向けた、ちょっとでもラクになれる方法です。完全にやめなくて大丈夫です。ちょっと食べ方を変えるだけで、全然違うんです。

お口の中は「pH7の平和な世界」——食べると一気に戦場になる

まず、お口の中で何が起きているかをイメージしてみてください。

普段のお口の中は、pH7前後の「中性」の状態を保っています。pHというのは、酸性とアルカリ性の度合いを示す数値で、7が中性、それ以下になると酸性に傾きます。リトマス紙の実験を思い出してもらえると、ちょっとイメージしやすいかもしれません。

この「平和な中性の状態」のときは、歯はとても安定しています。ところが、食べ物や飲み物がお口に入ると、状況が一変します。

細菌の暴走で「酸性雨」が降り始めるメカニズム

私たちの歯の表面には、目に見えない細菌の塊(いわゆる「歯垢」「プラーク」)が薄く付着しています。この中には、ミュータンス菌をはじめとする虫歯の原因菌が住みついています。

食べ物の糖分がお口に入ると、この虫歯菌たちが糖をエサにして「酸」をせっせと作り出します。この酸が歯の表面に降り注ぐことで、お口の中のpHがぐっと下がり、酸性に傾いていきます。

pHが5.5以下になると、歯の表面のエナメル質からカルシウムやリンなどのミネラルが溶け出し始めます。これを専門的には「脱灰(だっかい)」と言います。タイトルにある「酸性雨」というのは、まさにこの状態のこと。歯という名の地面に、じわじわと酸の雨が降り続けている——そんなイメージです。

この「脱灰」が積み重なって、修復が追いつかなくなったところが、虫歯です。

唾液が「お口の救世主」になるまでに30〜60分かかる

「でも、人間の体ってうまくできているんじゃないの?」と思った方、鋭いです。そう、ちゃんと回復の仕組みも備わっています。それが唾液です。

唾液には、酸性に傾いたお口を中性に戻してくれる「緩衝作用」があります。さらに、唾液に含まれるカルシウムやリン酸が、脱灰で溶け出したエナメル質のミネラルを再び補充してくれる「再石灰化(さいせっかいか)」という、いわばお口の自己修復機能も持っています。

なんとすばらしい!ですよね。でも、ここに落とし穴があります。

唾液がお口を中性に戻すまでには、30分〜1時間程度の時間が必要なのです。

つまり、食べ終わってからしばらくは「脱灰の時間」が続き、その後ゆっくりと「再石灰化の時間」に移行する、というサイクルを繰り返しているわけです。

この脱灰と再石灰化のバランスが保たれていれば、虫歯にはなりません。問題は、このサイクルが「崩れたとき」です。

状態口腔内の変化
食事・間食中〜直後pH低下→脱灰スタート(歯が溶け始める)
食後30〜60分唾液が中和→再石灰化で歯が修復される
再び間食また脱灰スタート→再石灰化できないまま悪化

ダラダラ食べをしていると、脱灰の時間がずっと続いて、再石灰化が追いつかなくなります。これがまさに、「お口の中がずっと酸性雨」という状態です。

デスクワーク中のチョコが特別に危険な3つの理由

「間食が多いと良くない」というのは、なんとなく知っていた方も多いかと思います。でも、なぜデスクワーク中のチョコが特に問題なのか、もう少し掘り下げてみましょう。

厚生労働省のe-ヘルスネット「むし歯の予防法(総論)」によると、虫歯を作る要因は「歯の質・細菌(むし歯原因菌)・食物(砂糖)」の3つにまとめられています。そして、それを防ぐ方法のひとつとして「糖分を含む食品の摂取頻度の制限」が挙げられています。

デスクワーク中のチョコは、この3つの要因が重なりやすい環境を作ってしまいます。

① 仕事に集中しているとダラダラ食べになりやすい

PCの画面を見ながら、会議の資料を読みながら……「ながら食べ」の状態では、食べ終わりの意識が薄れがちです。気づいたら1時間かけてチョコを5〜6粒食べていた、なんてことも。この1時間、お口の中はずっと酸性雨が降り続けていたことになります。

② チョコは砂糖が多く、しかも歯に「くっつく」

虫歯菌が好むのは砂糖(スクロース)です。チョコレートには多くの砂糖が含まれているうえ、溶けると歯の溝やすき間にくっつきやすい性質があります。唾液でも流れにくく、歯の表面で虫歯菌のエサになり続けます。

ちょうど、お皿についた油汚れのようなイメージです。水でさっと流すだけでは落ちず、しばらく残りますよね。チョコの糖分も似たような感じで、お口の中に居座ってしまいます。

③ デスクで飲むコーヒーや甘い缶コーヒーも相乗効果で危ない

チョコのお供に、甘い缶コーヒーやフレーバーティーを飲んでいる方も多いですよね。これらにも糖分が含まれていることが多く、チョコと組み合わさることで、お口の中が酸性に傾く時間がさらに長くなります。

「でも甘いものが食べたい!」デスクワーカーのためのダメージ軽減3ステップ

「じゃあ一切食べちゃいけないの?」と思った方、大丈夫です。完璧にやめる必要はありません。「70点でいいから毎日続けられること」を大切にしている私が、現実的な対策をお伝えします。

ステップ1 時間を決めて「まとめて食べる」

一番効果が大きいのは、これです。「食べる回数を減らすこと」は、「食べる量を減らすこと」よりも虫歯予防への影響が大きいんです。

5個のチョコを1時間かけてダラダラ食べるより、5個を10分でまとめて食べるほうが、お口が酸性に傾いている時間はずっと短くなります。

おすすめは、「午後3時のおやつタイム」のように時間を決めること。スケジュールに「15:00 チョコタイム」と書き込んでしまうくらいの割り切りが、意外と上手くいきます。

ステップ2 食べたらすぐ「水うがい」

デスクでの歯磨きは、なかなかハードルが高いですよね。でも、水やお茶でうがいをするだけでも、お口の中の糖分を物理的に流し出す効果があります。

  • 食後にコップ1杯の水をゴクゴクと飲む
  • 水でブクブクうがいを10秒する

これだけでいいんです。うがいができない場合は、水を一口飲むだけでも違います。洗い物をお水でさっと流すのと似ていますね。完璧には落ちないけれど、しないよりはずっとマシです。

ステップ3 キシリトールガムを「お口のリセットボタン」に

甘いものを食べた後、キシリトール100%またはキシリトール50%以上・糖類ゼロのガムを噛む習慣をつけてみてください。

キシリトールは、虫歯菌がエサとして利用できない甘味料です。噛むことで唾液の分泌が促され、お口の中を中性に戻す手助けをしてくれます。また、ミュータンス菌の活動そのものを弱める効果も確認されています。

ポイントは、「糖類ゼロ」であること。「キシリトール入り」と書いてあっても、砂糖が含まれているものはかえって逆効果になることがあります。パッケージの裏の原材料欄を一度確認してみてください。

チョコより歯にやさしい!デスクワーク向けおやつリスト

せっかくなので、デスクワーカーに向けて、歯への影響が少ないおやつの候補もご紹介します。

おやつ歯への影響おすすめ理由
素焼きナッツ(無塩)◎ 低リスク糖分が少なく、噛むことで唾液が出る
チーズ◎ 低リスクカルシウムが豊富で歯の再石灰化を助ける
するめ・昆布◎ 低リスク噛みごたえがあり唾液分泌を促進
高カカオチョコ(70%以上)○ 中リスク砂糖量が少なく、カカオポリフェノールに抗菌作用あり
普通のミルクチョコ△ 高リスク砂糖多め・粘着性高め・ダラダラ食べしやすい
飴・グミ・キャラメル× 最高リスク口の中に長く留まり、糖が歯に触れ続ける

特に飴やグミは、口の中での「滞在時間」が長いのが問題です。チョコよりも注意が必要なこともあります。

どうしてもチョコがやめられないあなたへ——選び方と食べ方のコツ

「チョコが大好きで、どうしてもやめられない!」という方に、少しでも歯に優しく楽しむためのコツをお伝えします。

日本歯科医師会の歯の情報サイト「テーマパーク8020 むし歯の予防法」でも解説されているように、よく噛んで食べることが唾液の分泌を促し、虫歯予防に有効とされています。チョコを食べるときも、ゆっくり口の中で溶かすより、しっかり噛んで早めに飲み込んだほうが歯への影響は少なくなります。

また、チョコの選び方も重要です。

  • カカオ70%以上のダークチョコレートは砂糖量が少なく、カカオポリフェノールに抗菌作用があることが研究で示されています
  • キシリトール100%使用のチョコレートは、虫歯菌がエサにできないため比較的リスクが低い
  • ホワイトチョコレートはカカオ成分がなく砂糖が多いため、リスクは高め

そして最後に大切なこと。どんなチョコを食べても、「まとめて食べる→水うがい→キシリトールガム」の流れを守ること。これが一番の防御策です。

まとめ

ダラダラ食べが虫歯に悪い理由を、今日は3点に絞ってお伝えしました。

  • 食べるたびにお口の中は酸性になり、歯が溶け始める「脱灰」が起きる
  • 唾液がお口を中性に戻す「再石灰化」には30〜60分かかる
  • ダラダラ食べは再石灰化の時間を奪い、ずっと酸性のままにしてしまう

チョコが特に危険なのは、砂糖が多く、歯に粘着しやすく、デスクワーク中は無意識に長時間食べ続けてしまいやすいからです。

でも、「完璧にやめないといけない」なんて思わないでください。今日できることは、ひとつだけで十分です。

「今日から間食は、時間を決めてまとめて食べる」——まずこれだけやってみてください。それだけで、お口の中の酸性雨の降る時間は大幅に短くなります。それだけで十分偉いんです!

お口の健康は、人生の「おいしい」を守ること。あなたの大好きなチョコも、ちょっとした工夫で長く楽しめるようになりますよ。一緒に、無理なく続けられるケアを探していきましょうね。