物書きはサービス業だ!『いますぐ書け、の文章法』ブックレビュー  ―ライティングに効く読書

物書きはサービス業だ!『いますぐ書け、の文章法』ブックレビュー ―ライティングに効く読書

今日ご紹介するのは、コラムニストとして活躍する傍ら、ライターの育成にも携わる堀井憲一郎氏の『いますぐ書け、の文章法』(ちくま新書)。ライティングに関する表面的なテクニックに留まらず、書き出す前の心の持ちようにも多くの示唆を与えてくれます。数あるノウハウの中から5つに絞って紹介します。

いますぐ書け、の文章法 (ちくま新書)

1.文章を書くことはサービスである

著者の主張が凝縮されているのは、おそらく次の2行です。

「文章を書くことは、サービスである。
読む人のことを考え、ゆきとどいたサービスを届けないといけない」

ここでいうサービスとは何か? それは「読んでいる人のことを、いつも考えていること」だと言います。「文章をサービスだと捉えられていた人だけが、お金を取れる文章を書ける」とも語っています。

ここに文章のプロとアマチュアを分かつ差があるのです。まずは、物書きはサービス業であることを肝に銘じて読み進んでみましょう。

2.褒められたいと思うな

ライター志望、もしくはすでにライターとして歩き出した人なら、もともと書くことが好きなはずです。好きになったきっかけを思い返してください。Facebookの投稿に「いいね!」がたくさんつくとうれしい。ブログに好意的なコメントをつけてもらえると励みになる。子ども時代にさかのぼれば、先生に作文を褒められた経験が印象に残っているのかもしれません。

ここで著者の警鐘に耳を傾けてみます。ずばり、「褒めてもらいたい人は文章を書くな」。褒められたいという気持ちが強いと、ヘンにかっこよく書こうとして、自分語りになってしまいがちです。読む人のことより、自分が優先してしまう恐れがあるのです。

SNS全盛のいま、徹底的にサービス精神にのっとって読者目線に立ちつつも、「いいね!」を期待しすぎない姿勢が求められているとも言えます。

3.書くからには断定する!

読む人のことを考えた場合、テクニックとしてぜひ気をつけたいのが、「書くかぎりは断定せよ」という教えです。反論を恐れて、あいまいなトーンでごまかしたくなる誘惑に負けてはいけません。

著者いわく「断定するのは読む人のため、断定しないのは自己弁護のため」なのです。

断定しない文章の典型例として挙げられているのが、冒頭の「私は」という一人称、そして文末の「思う」です。どんな文章であっても極論すれば、自分が「思う」ことを文字にするのが書くという行為です。

どれだけ取材をしようと多くのデータに当たろうと、その結果として自分が思ったことを書くわけです。つまり、ほとんどすべての文章が「私は〜と思う」の形になり得ます。だからこそ、著者も意識的に「言い切れないなら、書くな」と自身にも言い聞かせながら執筆しているとのこと。

もちろん、断定するためには、きっちりリサーチして根拠を示す必要があるのは言うまでもありません。ここを勘違いして独断的な文章を書いていては、とてもプロとは言えません。

4.人を変えるために書く

何よりも読者のことを思い、サービス精神を発揮して書く理由を、著者は「人を変えるため」だと述べています。

人を変えるというと、「サービス」と相反するように聞こえそうですが、むしろ逆です。著者の「お客さんの時間をいただいて自分の書いたものを読んでもらうのだから、読んだあと、読む前と何かが変わったとおもっていただかなければいけない」という主張はまさにサービスそのものです。

もっとも、人の生き方や価値観まで変えようとする必要はありません。ちょっとした日常の習慣ひとつ変えることができたら、相当な影響力です。著者も「細かいことのほうが、人を変えやすい」として、たとえば「唐揚げを画期的に手際よく揚げられるように」できる文章は最高だと述べています。

5.そこに驚きはあるか?

では、どういう文章が人を変える可能性があるのか?

それは「自分の驚きを伝えようとしているもの」だと著者は言います。

仕事として書く場合、とくに企業サイトのライティングの場合などは、クライアントの要望に沿うのに精一杯で、とても自分の驚きを入れる余地などないと感じることもあるでしょう。

でも、ウェブリサーチをして使えそうなネタやデータを盛り込むだけで、自分というフィルターを通さなければ、だれが書いても同じ原稿にしかなりません。自分の驚きを伝えるとは、つまり自分独自の視点や感性を加えることです。

ここで書き出す前の心構えが大切になってきます。

著者は「いつも『何かおもしろいことはないか』『新しい工夫はないか』と常に考えて生きて」いるとのこと。
ちょっと大変そうですが、せっかくライターを目指すなら、もしくはもう一歩上を目指すなら、ぜひ見習いたい姿勢です。

以上、5つのポイントだけに絞ってお伝えしました。著者のノウハウをもっと詳しく知りたい方は、ぜひご一読いただくことをおすすめします。

 

著者プロフィール

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小島和子
フリーランスで編集・執筆・出版プロデュースを手がける。最初に勤めた出版社では、語学書や旅行記など、異文化にまつわる書籍の編集を担当。環境をテーマにした本づくりをきっかけにキャリアチェンジし、政府系機関やNGOで環境問題に関する情報発信に携わるなど、出版業界以外の経験も豊富。近ごろは東北復興の取材で現地に足を運ぶ機会も。分担執筆した著書に『つながるいのち―生物多様性からのメッセージ』がある。

 

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