フリーランサーと企業はなぜ理解し合えないのか?理由と対処法

フリーランサーと企業はなぜ理解し合えないのか?理由と対処法

近年、日本の企業も次々とオウンドメディアやコンテンツマーケティングの取り組みを始めています。それに伴い、企業のマーケティング部門の人たちが、これまで接触機会が無かったフリーランサーたちにコンテンツ制作を発注する機会が増えました。

フリーランサーにとっては、お仕事が増えて喜ばしいことですが、実際には、依頼内容が雑だったり、報酬が異常に安かったりと、さまざまな問題に直面することがあります。

今回は、それらの問題からいくつかピックアップして、理由と解決策を考えてみましょう。

フリーランス=社会的落後者という偏見?

幸運なことに、現在の私のクライアントにはそのような人はいませんが、企業に属している人たちのなかには、フリーランスを見下したり高圧的な発注態度を見せたりする人がいます。

私も長いこと企業側で多くのフリーランサー(ライター、デザイナー、イラストレーター、翻訳者、DTPオペレーターなど)に仕事を発注する側にいたので、そのような上司や同僚たちを見てきました。

そこで感じたのは、企業で働いている人たちのフリーランサーへの偏見です。「フリーランサーは社会性に欠け、自己主張が強いがゆえに企業で働けずにフリーになったのだろう」という見方をする人もいます。

確かに一昔前にはそういうタイプの人たちも多かったので、そのような偏見が生まれてもしかたがない部分もありました。
しかし、発注者側がそのような偏見をもっていては、フリーランス側も良い気持ちで仕事ができません。

それではどうすれば良いのでしょうか?

解決策は非常に単純です。
ともかく、一般の会社員以上にビジネスマナーに気を使うということです。発注者を不安にさせないことが肝心です。

当たり前ですが、直接会話をするときは、バイト用語やタメ口はNGです。相手がフレンドリーで砕けた言葉使いをしてきたからといって、自分までフレンドリーな話し方をしてはいけません。

あくまでビジネス中であるという姿勢を崩さないように礼儀を持って接するようにしましょう。

また、メールをいただいたときは、速やかに返信します。ファイルを受け取っただけでも「添付ファイルを確かに受け取りました」と報告しなければ、発注者は不安になります。

もし、回答に時間がかかるような内容であれば、「お問い合わせありがとうございました。確認後、改めてご連絡差し上げます」とすぐに返信します。

最近の若い人で多いのは、問題がなければ返信しない、という姿勢の人です。特に疑問点も問題もないから返信は必要ない、と思っていたら発注者からの信頼を得るのは難しいでしょう。
発注者側は、「返信がないのは問題がないということだな」とは思ってくれません。
「返信が無いけどこちらの意図は理解できているのだろうか?」「メール届いたのだろうか?」などと不安にさせてしまいますし、悪くすると「人のメールを無視するとは何様だ?」と反感を持たれる可能性もあります。

ですから、連絡をいただいたら必ず確認しましたよ、というメッセージを送りましょう。

このような些細なことで、「やっぱりフリーランスというのは……」などと思われないように注意すべきです。

発注者の発注スキルや業界知識の不足

フリーランスに発注し慣れていない企業側の発注者は、発注内容が粗くフリーランス側がパフォーマンスを発揮できない場合があります。

これは、従来の企業側発注者の仕事の依頼先が、ツーカーで仕事内容を理解できる社内のスタッフや企業の受注業者だったためです。

社内にいるスタッフなら発注者とコミュニケーションもとりやすく、指示方法にも慣れているでしょう。また、受注歴の長い企業もその発注者に慣れた専任の営業やディレクターなどがついており、発注者の指示がいくらかおおざっぱでも、その意図を汲んで現場のスタッフに具体的な指示を出せます。

しかし、発注者側が直接フリーランスに仕事を発注する際の指示スキルが低かったり、その業界の知識が少なかったりすると、フリーランスが作業に入るためにどれだけの情報を提供しなければいけないのか理解できません。
そのため、フリーランス側が親切心を起こして自分なりの解釈で作業しても、納品したものが発注者の意図とずれていた場合、フリーランス側のスキルが低いと判断されてしまう可能性があります。

このようなトラブルを回避するには、フリーランス側は、発注者の発注内容に曖昧な点や疑問点があった場合は、納得がいくまで仕事の内容を確認すべきです。

「質問ばかりすると不愉快がられてしまうのではないか」、あるいは「仕事ができないと人間だと思われないか」などと遠慮し、かつ親切心もあって自分なりに解釈して仕事をしてしまいたくなるかもしれません。

しかし、そこはがんばって、納得がいくまで確認すべきです。

多くの発注者はきちんとした仕事をしてほしいので、質問には丁寧に答えてくれますが、もし機嫌を損ねて怒りを顕わにするような発注者であれば、次回から仕事を受けないという選択もあります。成長しないクライアントに関わっている時間は無駄だと割り切りましょう。

相場観の違いが招くトラブル

昨今は、発注者である企業側の担当者が、相場が分からないときの参考としてクラウドソーシングの受発注額を調べる場合があります。
ところがクラウドソーシングでは、個人がアフィリエイトサイトなどに使う安かろう悪かろうで構わない仕事も混在しているため、極端に低い単価を相場だと勘違いしている場合があります。

また、企業側の人は、フリーランスは個人なのだから安くて当然だろうと考える傾向があります。

そのため、企業が高品質の仕事を、驚くほど低い金額で発注する場合があります。ですから、仕事を受ける際は、必ず単価を確認するようにしましょう。
多くの発注者はフリーランスに対して仕事を打診する際は、金額を提示してくれますが、馴れ合いで仕事を発注する習慣がある発注者は、金額を提示せずに仕事を依頼する場合があります。その場合、仕事をしてしまってからでは、受注した側から単価を上げることはほぼ不可能です。

ですから、金額のトラブルを避けるためには、仕事を依頼されたら必ず条件や単価を確認しましょう。

もし、発注者側から、相場よりも低すぎる金額を提示された場合は、3つの選択肢があります。

1. しかたないので安い金額で受注する
まだ自分も駆け出しで、勉強期間だからと、とにかく仕事の実績を作りたい期間である場合はしかたないかもしれません。

2. 価格交渉をする
自分が行う仕事について、正当な金額を要求するのですから、遠慮せずに希望金額を提示しましょう。

3. 仕事をお断りする
交渉の余地がないと判断した場合のオプションです。不当な金額の仕事をする時間があれば、妥当な金額で発注してくれるクライアントを探したり営業をかけたりすることに費やすほうがよいでしょう。

そして、フリーランス全体のことを考えれば、極力安すぎる仕事は受けないことが望ましいです。安くても引き受けてくれるフリーランスがいれば、相場が崩れやすくなってしまうからです。

制作フローへの理解不足

発注者には、仕事がどのように行われるのか知らない人や、あるいは想像できていない人もいます。このような人たちは、たとえ1000文字の短い記事を作成するにも、執筆前のリサーチや構成の考案、執筆後のSEO対応チェックや推敲、またうっかりコピペを行っていないかの検証作業などを行うために費やしている労力や時間について理解できていないことがあります。

そのため、驚くほど低い単価を提示したり、とても無理な納期を要請したり、気分と思いつきによる追加条件を次から次へと出してくることがあります。

その結果、フリーランサーは良い物を作ることに集中できなくなり、納品物の品質が落ちてしまうことを防げない事態になります。
しかし、このような発注者は、品質の悪さをフリーランサーの手抜きやスキル不足と判断するでしょう。

このような事態を防ぐには、このような発注者に対して、最初は面倒かもしれませんが、フリーランサー側がどのような作業を行っているのかを丁寧に説明し、金額や納期の妥当性を説得し、条件が変わった場合は金額や納期を譲歩してくれなければ対応できないことをしっかりと伝える必要があります。

信頼関係が築けていない

発注者が制作発注に慣れている場合や、依頼先が社内のスタッフや、すでに付き合いが長い業者である場合は、発注者もそれほど不安を持たないでしょう。

しかし、これまで内部スタッフにも出入りの業者にも発注したことのないコンテンツ制作の仕事を、取引実績のないフリーランスに発注するのはかなり勇気が要りますし、発注の段取りにも手間がかかるはずです。

ですから、フリーランス側は、できるだけ発注者が安心して発注できるように信頼を得る必要があります。

たとえば、私は自著や他者の著書のブックライティング(所謂ゴーストライター)の仕事で数社の出版社さんとお付き合いさせていただいていますが、編集者さんは皆さん、ライターや著者が途中で執筆を放り出さないか心配しています。編集者さんたちから聞いて驚いたのですが、書籍の執筆ではライターが仕事を途中で放り投げたり、連絡が取れなくなって失踪してしまう、ということがよくあるというのです。

そのため、編集者さんというのはライターに対して常に不安を抱えています。

また、作家であり売れっ子ブックライターである上阪徹氏も、著書『書いて生きていく プロ文章論』で、編集者さんの気持ちを「どんな仕事をしてきた人なのか、わからない人に仕事をお願いするとき、発注者側は不安でいっぱいなはずです」と代弁しています。

それではフリーランサーは、発注者の信頼を得るために、どのようなことに注意すれば良いでしょうか?

まず、フリーランサーは、発注者からどこの馬の骨とも知れない人物と思われないために、具体的な仕事の実績が分かるプロフィールを用意しておく必要があります。

プロフィールには氏名、生年月日、連絡先、最終学歴や簡単な職歴を。WEBコンテンツのライティング実績であれば参照できるURLを。寄稿実績の媒体と寄稿年月日、定期刊行物であれば媒体名と担当したタイトル名を。著書があれば書名と出版社名などを紙面が許す限り書いておきます。

実際に発注者と顔を合わせる場合は、プロフィールを事前にWordファイルやPDFファイルなどでメールに添付して送信しておきます。

また、納期や条件について、無理な場合ははっきり無理だと伝えるだけでなく、可能な条件を提案するなどすれば、信頼を得られるはずです。

できもしないのに仕事欲しさに嘘をつくことが最悪の結果を招きます。発注者に対しては、誠実に対応することがお互いに良い結果を生むことになります。

まとめ

フリーランサーとして企業の担当者さんとお付き合いする場合に肝に銘じておかねばならないことは、結局次の3つに集約できそうです。

  1. ビジネスマナーを守ること

  2. 発注者はフリーランサーへの発注に慣れていないことに配慮すること

  3. 誠実に対応すること

です。

ただ、残念ながら、発注者が皆さん誠実な人ばかりとは限りません。フリーランス側の作業負担への理解を示そうとせず、納期や単価、仕事の進め方などで無理な条件を一切譲らない、という姿勢の発注者に対しては、仕事を断ることも必要です。

より良いクライアントの仕事を選ぶことができるのは、フリーランサーの特権ではあるのですから。

 

 

著者プロフィール

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地蔵重樹(ハンドルネーム:しげぞう)
ライター。ブックライティングを中心に、Webマガジンや企業のオウンドメディア、リードナーチャリング用のe-bookなどを執筆している。オカルトから経済・テクノロジーまで守備範囲が広いが、グルメとスポーツのお仕事はお断りしている。趣味は読書と、愛猫と一緒にソファーで昼寝すること。

 

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