売れる文章は書く前に決まる!「ライティングに効く読書」ブックレビュー

売れる文章は書く前に決まる!「ライティングに効く読書」ブックレビュー

文章の書き方を指南する本はごまんと出ていますが、それだけに、自分の悩みにダイレクトに答えてくれる本を探すのは意外とたいへんです。今日は仕事として商業メディアで通用する文章をサクサク書けるようになりたい人向けに、実践的ですぐに役立つ『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』を紹介します。

紹介する本

新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング (できるビジネスシリーズ)

『新しい文章力の教室—苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』
(唐木元著、インプレス、2015年)

いい文章とは何か? 人によって答えはまちまちでしょうが、本書が述べる条件は実に明快。それは「完読」されることです。おいしいラーメンなら残さず「完食」してもらえるように、いい文章なら最後まで読んでもらえるはず。本書ではまずはそこを目指そうと言っています。 

わかりやすい文を書くのがまだ苦手とか、いつも時間がかかってしまうという人なら、全5章のうち第1章の「書く前に準備する」を咀嚼するだけでも、ずいぶん向上するはずです。この章では、いきなり原稿を書き始めるのではなく、書く前の準備の重要性が強調されています。まずは目の前に素材をきちんと並べること。つまり、書きたい話題を紙に書き出して、文章のテーマ(主眼)を明確にするのです。この手順を明確にするツールが「構造シート」です。

構造シートのつくり方はいたって簡単。まずは書こうとする話題を箇条書きに列挙し、それを眺めながら文章のテーマを見定めます。そして、どの話題から切り出すべきか順番を考えたり優先度を決めたりします。その作業を終えたら、きちんと順番通りに書き直して、構造シートが完成するという手はず。この準備が整って初めて文を書き始めます。構造シートの箇条書きに肉付けするように仕上げればいいので、まったくのゼロから書き始めるより、気持ちの負担もずっと軽くなります。

プロは仕事の「型」を持っている

多少のバリエーションはありつつも、すでに経験を積んだライターなら、こうした作業を無意識にでもしているはず。それでも本書では、書き慣れている人も構造シートを(たとえ頭の中ででも)つくることを勧めています。そのほうが、たとえ不得手なジャンルの執筆依頼が来ても、安定したペースで書き続けられるというのです。

このように日々の仕事にある種の「型」を用いる効能は、ライティングに限らず非常に有効です。ここでいう型とは手順と言い換えてもいいでしょう。多少手間がかかる仕事でも、小さなタスクに分解し、取り組む手順が決まっていれば、「どこから手をつければいいか?」と迷うことなく取りかかることができます。まずは本書の手順を真似てみて、ある程度慣れてきたら自分なりにアレンジすればいいのです。

こうしてライティングの型を身につけた人は、2章以降を読み進み、さらにブラッシュアップに励むといいでしょう。

全力疾走するだけでは能がない

やや上級編のテクニックとして興味深かったのは、3章で紹介されている「スピード感をコントロールする」です。文章のスピード感とは「情報量÷文字数」で割り出せるもの。同じ内容を伝えるのに、1,000字を費やすより500字で言ったほうがスピード感が出ます。

完読されるのが良い文章の条件であるなら、できるだけスピード感があるほうがいいのでは? と思うかもしれません。しかし、「スピード感は出せばいいというものではない」と本書は戒めます。書き手が最初から最後までトップギアで走り抜けようとすると、読者が息切れして着いて来られなくなってしまうのですね。

初心者ライターの書く文は得てして冗長になりがちです。まずはスピード感を出せるように心がけ、慣れてきたら今度は適切なスピード感をコントロールするという二段階で訓練することを勧めています。ここはちょっと経験がモノをいう領域。ぜひ挑戦してみてください。

末筆ながら著者の唐木元氏は、月に3,000本以上の記事を配信するポップカルチャーのニュースサイト「コミックナタリー」の初代編集長です。社員記者が良質な記事を量産できるよう、通称「唐木ゼミ」と呼ばれる社内勉強会を行っており、そこで蓄積されたノウハウをまとめたのが本書です。ライター実績がまったくない新人記者を短期間で一人前にするノウハウが凝縮されていますから、「もっと稼げるライターになりたい!」「わかりやすい原稿だと言われたい!」と即効性を求めるライターにオススメです。

photo by: James Jordan

 

著者プロフィール

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小島和子
フリーランスで編集・執筆・出版プロデュースを手がける。最初に勤めた出版社では、語学書や旅行記など、異文化にまつわる書籍の編集を担当。環境をテーマにした本づくりをきっかけにキャリアチェンジし、政府系機関やNGOで環境問題に関する情報発信に携わるなど、出版業界以外の経験も豊富。近ごろは東北復興の取材で現地に足を運ぶ機会も。分担執筆した著書に『つながるいのち―生物多様性からのメッセージ』がある。

 

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