
CAREER
ライター共通の悩み「肩書き問題」を考える
自分の肩書きをどう表現するか? これはフリーランスに共通する悩みです。「書く」仕事で身を立てようと独立して間もない人であれば、とりあえず名刺には「フリーライター」と入れたものの、「ちょっと物足りない?」「もっといい呼び名はないかな」と思っている人も多いでしょう。
よく「人は見た目が9割」と言われますが、仕事上の人間関係では、見た目と同じぐらい大切なのが肩書きです。名刺に入れた肩書きが第一印象を左右しかねませんから、新たな仕事を獲得できるかどうかにもかかわってくる問題です。
そこでまず、世間にあふれるライター系の肩書きを整理して、自分にピッタリの肩書きの決め方を考えてみます。
「肩書きインフレ」の様相を呈するライター稼業
ライターっぽい職業を指す肩書きは、もう無数と言ってもいいのでは? と思うほどたくさんあります。ウェブライター、ブロガー、ビジネスライター、コピーライター、作家、記者、ジャーナリスト、ノンフィクションライター、ルポライター、ゲームライター、シナリオライター、ゴーストライターなどなど。
とくにここ数年、ウェブメディアが爆発的に増えてきたのに伴って「ライター」の種類も増え、いわば「肩書きインフレ」の様相を呈しています。ライター自身もどう名乗るがいいか迷ってしまうほどですから、業界外の人から見たら、ほとんど区別がつかないかもしれません。
こうした職業名に確固とした定義はありません。各自がいわば勝手に名乗っているわけです。それでもあえて分類軸を立てるとすれば2つあります。1つめに、どんな媒体に書いているか、です。
メディアといえば、新聞・雑誌といった紙媒体しかなかったころは、話はもう少しシンプルでした。新聞の場合は「記者」と名乗ることがふつうですから(「新聞ライター」とは言いませんね)、ライターが活躍する媒体は雑誌や書籍に限られていました。書籍が専門の人はゴーストライターとも呼ばれます。
長引く出版不況で休刊する紙の雑誌が相次ぎ、紙からウェブに活躍の場を広げた(紙の仕事が減って、広げざるを得なくなった)ライターもいますが、私の回りを見渡すかぎり、それを機に「ウェブライター」と名乗り始めた人はいません。ウェブ時代になってからライター業を始め、紙媒体の経験を経ていない人が「ウェブライター」と自称しているようです。
ウェブメディアのなかでも近ごろ需要が急増しているのが、企業のオウンドメディアで活躍するライターです。新しいジャンルなだけに呼称が定まっていない感がありますが、「ビジネスライター」という言い方を耳にする機会が増えてきました。
「原稿料」で生きていくライター、「広告料」で稼ぐブロガー
ここまで見てきた「ライター」が何を対価に稼いでいるかというと、多くは「原稿料」です。書籍の仕事であれば「印税」という形で支払われることもありますが、書いた原稿への対価という意味で、広い意味では原稿料に含めていいでしょう。
この点でほかの多くのライターと違うポジションにあるのがブロガーです。ブログの主な収益は「バナー広告収入」と「アフィリエイト収入」。読者が直接ブロガーに支払うわけではありませんが、読者に読まれなければ「バナー広告収入」も「アフィリエイト収入」も発生しませんから、いわば読者というクライアント相手のビジネスです。
オンライン上にコンテンツを発信し、広告収入を得ているという意味では、ほかのライターよりYouTuber(ユーチューバー)に近いと言えます。商材がテキストか動画かの違いだけです。
ライターの仕事は「好きなことを書くこと」ではない
さまざまなライター稼業を見る2つめの軸として、自分の作家性とか世界観、オリジナリティを強く出す書き手か、クライアントのニーズに応えて執筆する書き手か、という分け方ができます。
前者の代表格は小説家でしょう。ジャーナリストやノンフィクションライターも、取材対象は外部に求めつつも、切り口や視点の独自性が勝負ですから、作家性の強い仕事です。ブロガーはピンからキリまでさまざまとはいえ、アルファブロガーと呼ばれるような影響力のある人は、やはり独自の世界観を展開している書き手です。
ライター志望者のなかには「好きなことを書いて食べていけるようになりたい!」という人がいるようですが、プロのライターとして生き残っている人の多くは、自分の好きなことを書くのではなく、クライアントの要求にきちんと応えられる人です。単に言われたとおりに書けばいいのではありません。クライアント自身さえ言語化できていなかった潜在的なニーズを引き出し、いちばん届けたい読者に伝わりやすい言葉に「翻訳」する力が必要です。
この資質が求められるのは、企業のオウンドメディアを担うビジネスライターが典型的ですが、ほかのあらゆるライターも同じです。小説家でさえ、編集者というクライアントに「次はこんな作品を書いてみませんか?」と言われて執筆する場合もあるわけですから、本当に好きなことだけを書けるのはブロガーくらいかもしれません。
いい肩書きがなければ自分でつくる
「世の中、いろんなライターがいるんだね」とわかったところで、いちばん知りたいことは「じゃあ、私はなんて名乗ればいいの?」ということですね。そこはもう、「どういう書き手だと思ってほしいのか」を考えて選ぶしかありません。
自分の肩書きを自分で選べるのがフリーランスのいいところです。会社員の場合、「課長」なのに「部長」と名乗ったら大問題ですが、どんなに駆け出しであっても「名乗ったもの勝ち」というか、名乗らなければ仕事を取りようがないのがフリーランスです。
ライター周りの肩書きを考えるとき、よく思い出すのが書籍の世界で活躍する上阪徹さんです。上阪さんの仕事は、本の著者となる人にインタビューをして、それを起こした原稿を元に、著者に代わって1冊の本に仕上げるというもの。よく「ゴーストライター」と呼ばれますが、どうにもその呼称がしっくりこなかった上阪さんは「ブックライター」という肩書きを自分で編み出したといいます(詳しくは、その名もずばりのご著書『職業、ブックライター』を参照)。
もちろん、実力の伴う方だからこそ、新しい呼称を定着させることができたわけですが、しっくりくる肩書きが見当たらなければ自分でつくればいい、という発想は見習いたいですね。
最後にもうお一人、ユニークな例を。直接は存じ上げない方ですが、たまたま見つけたサイトのライターさんの肩書きは、「広告やPRの企画から参加したくて、うずうずしているライター」とのこと。「今できること」ではなく、「これからやりたいこと」を肩書きにしてしまっているのがミソです。ちょっと長っ! とは思いますが、こんな名刺をいただいたら、なかなか忘れられそうにありません。
肩書き選びは、あまたあるライター業のなかで、自分のポジションをいま一度見つめ直すいい機会。変化の激しいこのご時勢、5年前の肩書きがいまも最適とは限りません。仕事の幅を広げたいとき、新しいクライアントが増えてきたときなど、折々に肩書きを考え直して仕事の棚卸しをするのもいいですね。
著者プロフィール

- 小島和子
- フリーランスで編集・執筆・出版プロデュースを手がける。最初に勤めた出版社では、語学書や旅行記など、異文化にまつわる書籍の編集を担当。環境をテーマにした本づくりをきっかけにキャリアチェンジし、政府系機関やNGOで環境問題に関する情報発信に携わるなど、出版業界以外の経験も豊富。近ごろは東北復興の取材で現地に足を運ぶ機会も。分担執筆した著書に『つながるいのち―生物多様性からのメッセージ』がある。
