【海外特派員レポート】壁の文字からたどる、パリの壁文化

ふと目にとまったものが思わぬ歴史につながっていく、そんなことがしばしば起きるのがパリという街です。

ある日オデオン座へ行く途中、大きな白壁の建物の前。ふと目を引いたのは建物ではなく、その壁に書かれた ≪Défense d'afficher - Loi du 29 juillet 1881≫の黒い文字でした。どこかで同じものを見た気が……。思い出せずに朝をむかえ学校にいくと、それは通学路途中の古い建物の壁にありました。いったいこの文字は何なのでしょうか?

パリの壁がすっきりしている理由

訳すと「張り紙禁止―1881年7月29日の法律」となります。この法律とは、1881年の制定の後に幾度となく改訂されてはいますが、出版の自由に関する現行の法律です。学校やスーパーの掲示板などの許された場所には地の壁が見えないほどチラシが貼ってありますが、壁にチラシがベタベタ貼ってある通りはほとんど見かけません。 その後わかったことですが、別に珍しいものではありませんでした。百年以上施行され続けている法律に対してもですが、百年以上にわたって機能を果たしている文字をあちこちで見かけられるというのは驚きです。

花開くポスター文化

この法律が出版を規制するものだと思われた方もいるかもしれませんが、実は検閲の廃止など「出版の自由」を謳ったものです。この法律で広告表現の規制がゆるめられたことを機に、ポスター文化は一気に隆盛をきわめ、ベル・エポックのパリをそのまま印刷したような色鮮やかで生き生きとしたポスターが次つぎと制作されました。日本でも有名なアンリ・トゥールーズ=ロートレックやアルフォンス・ミュッシャ、ジュール・シェレといった画家たちが活躍したのもまさにこの時期です。

パリで歩いているとヌード写真を用いたファッション誌などのポスターを目にすることがたびたびあります。これもまた「1881年7月29日の法律」があるからこそ可能な風景。この法律がパリの壁文化の鍵を握っているようです。

 

海外特派員:増田景子

横浜市出身。夢はキャリアウーマンだったはずが、気づけば大学院を修了して、現在はパリに留学中。専攻は映画批評。パリでは映画館、劇場、美術館に通う毎日。日本では映画雜誌『nobody』の編集に参加し、F/T12のBlogCamp、『キネマ旬報』などにも記事を執筆。

 

 

 

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