侮ってはいけない「アナログツール」へのこだわりが、人の感情を動かす

侮ってはいけない「アナログツール」へのこだわりが、人の感情を動かす

「紙の資料なんてもう意味がない。基本はデジタルデータとインターネットでしょ?」

感覚的にそう思っている人は多いかもしれません。確かに多くの企業では、続々と紙を撤廃し、顧客へのプレゼン資料はデジタルへ移行。今まで制作していた紙のパンフレットも廃止して、DL用にデジタルデータを用意する……そんな動きが当たり前になっていますよね。

しかしその一方で、紙媒体が重宝されるケースがあるのをご存知でしょうか。

例えば、企業における社内報。ウェブは受け手が主体的に情報を取捨選択できてしまうため、全社的な告知や広報にはあまり向きません。必要な情報が全社員の手元に届く、紙の社内報をていねいに作っている企業は多いものです。

また最近、通販で商品を買うとミニ冊子などがついてくる会社も増えました。オウンドメディアブームが続く現在、何もその舞台はインターネット上だけではないのです。自社の商品について語るのに、顧客の手元に直接届く紙の冊子は、何より強力な“オウンドメディア”になります。

「紙はダメ、今はデジタル」と考えるのはあまりに短絡的。両者はどちらかが優れているわけではなく、特性や果たす役割がそれぞれ違うだけなんですよね。

今回はその「アナログツール」について、フリーライターの活動を例にして考えてみたいと思います。

フリーライターこそ、アナログツールを有効活用しよう

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フリーライターとして仕事を獲得するために、自分の経歴や実績、得意分野やアピールポイントなどの情報を発信しようと考えたとき、みなさんはまず何を使いますか? 必要となるものはいくつかありますよね。まずは自分のウェブサイトを立ち上げて、ブログも書きはじめる。ブログや実績をSNSで拡散する……ここ最近では、それがオーソドックスな流れでしょうか。

私がすすめたいのは、そこにもう一段階、「アナログツール」の力をプラスすること。

ここでいう「アナログツール」とは、ポートフォリオ、提供サービスや経歴などをまとめた冊子、名刺、季節の挨拶状、DM・チラシ、封筒など、紙でできた送付物全般を指します。

ウェブやSNSでの発信は、更新もスピーディーにできますし、周囲に拡散もしやすいのでお手軽です。コストもそれほどかかりませんしね。それに比べると、紙媒体の制作には手間もお金もかかります。

それでも私が「アナログツール」にこだわることをオススメするのには、2つの理由があります。

理由その1:人は視覚だけではなく、触覚からも判断する

アナログツールにあって、デジタルにはないいちばん大きなもの。それが「手触り」です。デザインや文章に比べるとないがしろにされがちな情報ですが、侮るべからず。
人は視覚だけではなく、触覚からもいろいろなことを感じ取っています。

例えば、激安スーパーの折り込みチラシ。それがものすごく丈夫で光沢のある、高級紙で作られていたらどうでしょうか。逆に何十万円もする高級バッグのパンフレットが、その辺にあるチラシと同じペラペラな紙でできていたら、どう思いますか?

例えば名刺ひとつとっても、用紙によって随分印象が変わります。「安さ、早さ」を強みにしたいなら、それなりのものでいいかもしれない。
でも大きな規模の企業と取引をしたい人や、高いクオリティとそれに見合った報酬を得たい人は、グレードの高い用紙を選ぶことで、手に取ったときの信頼感や高級感を演出できます。

このように、紙の質感によって相手に与える印象をコントロールすることができるのが、アナログツールのメリットなのです。

理由その2:モノとして手元に残り、時を超えてくれる

劣化することもなく、検索や共有、拡散などがすぐにできるデジタルデータ。しかし、最大の弱点ともいえるのが、相手からの能動的なアクションが必要なことです。
例えば、ライターを探す必要が生まれてキーワード検索するとか、SNS上で目に入ってクリックするとか、過去の記憶をたぐり寄せて昔のメールを探すとか……。

しかしアナログツールは、その人の手元にさえ届けば、とりあえず目を通してもらえる可能性が高いもの。特に冊子やパンフレットなどは、しっかりと作れば作るほど、手元で保管してもらえることも意外と多いのです。たとえ届いた瞬間には相手にニーズがなくとも、「こんなことが得意なライターがいる」「いつか頼むことがあるかも」「こんなパンフレットをもらった」「ちょっといい紙だから捨てづらい」というように感じてもらえれば上出来。

筆者も実際、営業用のDMとして自己紹介のミニ冊子をお客様に送付したことがあります。「何だか捨てちゃいけない気がして」と、そのDMを長い間取っておいてくれたとあるお客様からは、送付から1年以上たってから仕事を発注いただきました。

モノが相手の手元に残ることで、ある程度時間がたったあとに、思いがけない成果をもたらしてくれる。それがアナログツールのもうひとつのメリットです。

デザインや印刷も、今は簡単に依頼できる

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今はクラウドソーシングや印刷通販のおかげで、個人でもかなり安価にアナログツールを制作することが可能となっています。制作部数も、フリーライターであればそれほど大量にはいらないでしょうから、投資額も数万円でチャレンジすることができます。

いきなり冊子やパンフレットを作るのはハードルが高いかもしれませんが、いまだに「名刺は自宅のインクジェットプリンタで刷ってます」なんていう人は、手始めにきちんとした名刺をつくるところから、アナログツールの活用をはじめてみてください。

ほんの少しのこだわりが、相手の心を動かす小さなきっかけになるかもしれません。

 

著者プロフィール

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大島悠
企業広報を専門にしているフリーランスのライター・編集ディレクター。BtoB専門のデザイン制作会社勤務を経て、2013年に独立。会社案内や採用案内、コーポレートサイト、広報誌、各種パンフレットなどを中心として、企画・編集から取材・ライティングまでを幅広く請け負っている。

 

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