【プロの流儀01】知られざるコピーライターの世界。成功へのステップ、仕事の舞台裏

駅に貼られた大きなポスター、待ちを歩きながら見上げた看板に書かれている一言のフレーズに、はっとさせられた経験が誰しもあることでしょう。店頭に飾られたPOPにも、思わず惹き付けられ、商品を手に取ってしまうような台詞が並んでいます。

その“キャッチコピー”を編み出すのが、コピーライターの仕事。

WEBメディアの勃興で「ライター」を名乗る人は増えましたが、「コピーライター」はいまだベールに包まれた存在ではないでしょうか。どうすればコピーライターになれるのか、どのように仕事をしているのか……。

しかし、“言葉を紡ぐ”という意味では、ライターの世界と地続きのはず。そこで今回は、フリーランスでコピーライターとして活動している前田清仁さんにインタビュー。コピーライティングの仕事についてお話を伺いました!

広告の世界に憧れて

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 ―あ、お名刺、ありがとうございます。今回はよろしくお願いします。おや、前田さんの肩書きは「コピーライター/CGデザイナー」なんですね。

前田 そう、「珍しいですね」とよく言われるんですよ。名刺に表記しておくと、引きがあるかなと思って。

―実際、両方のプロでいらっしゃるんですよね?

前田 もともとはCGデザインがメインだったんです。大学卒業後、ゲーム会社に就職して、そこでCGデザイナーをやっていました。でも勢いで会社を辞めてしまって(笑)。生活のために、アルバイトでライターっぽい仕事を始めました。

―えっ、いきなりの飛躍。ライターに、ですか?

前田 はい。仕事としては、某IT企業のメルマガや記事広告のテキストを書いたりって感じですね。

―確かにライターの業務内容ですね、それは。

前田 そんなバイトをしながら、宣伝会議のコピーライター養成講座に1年間通ったんです。

―ライターからコピーライターに。それも、1年もかけて養成講座に通うとは、かなり本気のご転身ですね。

前田 もともと広告の世界に憧れがあったんですよね。ちょうど大学生の頃、『タグボート』が注目を集めていたりしていて、僕の中で「広告ってかっこいいな」という思いが募っていたんです。ライターをやりながらもコピーライター養成講座に通ったのは、漠然と「広告が好き」という思いがあったからで。

―CGデザインとコピーライティング。クリエイティブな仕事に対して、憧れ、熱い思いがあったんですね。あの……素人感覚で恐縮ですが、コピーライター養成講座っていった何を教えてくれるんですか?

前田 毎週、お題を与えられるんです。それに対するコピーを宿題として授業に持参して、講師が評価したコピーがみんなの前に張り出されて。そうすると、金の鉛筆をもらえるんですよ。

―おお! モチベーションが上がりますね!

前田 金メッキが施された、本物の鉛筆で。それを何本持っているかというのが、当時学生の間ではちょっとしたステータスでした(笑)。そういった授業を、何百人という大規模な教室で半年受けて、残りの半年は好きな講師を選んでもっと少人数のゼミのような授業を受けました。

―そこで、さらなる厳しい指導が……?

前田 「ひたすら書け」と言われました。お題に対して、2〜3本程度のコピーではダメなんです。毎週のお題をこなすことだけでいっぱいいっぱいだったのですが、準備段階で数本しか考えていないとバレるんですよ。「これぞ」というものを出した風を装っても、「これさぁ、前田くん。何本書いた?」と講師に聞かれるんです。

―講師を務めるのはプロのコピーライターの方ですよね。さすがの鋭さ! バレるって怖いですね。

前田 そうなんです。「ちょっと時間がなかったもので……」と言い訳すると、「だよね。これ、全然候補を考えてない中からの3本でしょ」とすぐ悟られてしまう。もうね、何も言い返せないっすよ(笑)。おっしゃる通りですから。おかげさまで鍛えられましたね。

コピーの“1000本ノック”で鍛えられる

―コピーライター養成講座をご卒業後は、どの道へ?

前田 やはり広告の仕事に携わりたかったので、広告代理店系列の制作プロダクションに入社しました。養成講座の1年間で書き溜めたコピーを作品集としてまとめて、とくに表向きに人材募集もしていないところへ送ったら採用されたんです。そこでコピーライターとして働き始めました。

―いよいよ広告のプロフェッショナルとしての道がスタートですね。いわゆる、クライアントワークですよね。お客様の広告に添えるコピーを考える、という。

前田 そうです。クリエイティブディレクターやデザイナーらと一緒にコンセプトから考えて、制作していきます。クライアントへの提案の前段階で、社内の打ち合わせがあるのですが、これがまた……。

―相当、ハード……?

前田 想像以上でした。最初の素案出しで最低100本はコピーを考えて会議に持参しないといけなくて……。

―素案で100本、ですか!? それはまた……

前田 自分では「50本も考えた。俺、頑張ったわ」と会議に乗り込んだら、先輩はもっと分厚い紙の束を持ってきているんです。100本どころか、200本、300本ですよ! で、それを次から次へとクリエイティブディレクターに見せては、「違う。これも全然違う」とはねられて。もう、衝撃でしたね。まるで野球の1000本ノックじゃないか、と。

―間違いなく、それは1000本ノックですね。すごいなぁ!

前田 毎日のように100本、また100本……と書いてはダメ出しをくらうんです。それが一週間ぐらい続きます。で、プレゼンまでもう日がないから、という段階になると徹夜で会社に泊まり込み。ようやくディレクターが「このコピー、いいね。じゃあこれを掘り下げようか」と、またその場で100本考えるという。

―うわぁ、ヘビーだなぁ……。

前田 よく、マンガやドラマで「寝る間も惜しんで働く広告マン」とか描かれるじゃないですか。あれって作り物の世界かと思っていたら、リアルでした(笑)。冗談ではなく家に帰れない日々が続いて、「脳みそから血が出るまでコピーを考えろ」と言われましたよ。

―(絶句)あの……大変失礼なことを言うようですが、コピーって、短いじゃないですか。だから一般的には「簡単に作れるんじゃないか」と……。

前田 そう! 誤解されがちなんです。ここはちょっと、声を大にして言っておきたいですね(笑)。短いからといって簡単ではなく、僕は、むしろ言葉って短いほど生みだすのが難しいと思っています。

―ライターで原稿を書く場合、編集者に3〜4回ぐらいは赤入れされて突き返されることはありますけど、さすがに1000本は書かないです。

前田 ですよね。コピーは、いわば主題です。物事の本質を捉えないと生みだせないものです。そして短い分、上手い下手がはっきりと出るものだと思います。

―物事の本質、ということは、まずは全体を捉えないといけないですよね。さらにバックグラウンドまで調べて……。

前田 そうですね。コピーライティングの前に資料を集めて読み込み、その世界観を頭にしっかりと入れる、ブランド理解をするという準備作業があります。

―コピーライターさんのお仕事は、想像を超える大変さでした。その血の滲むような努力が、短いコピーに凝縮されているんですね。

前田 コピーは、ライターさんの書く記事でいうところの「タイトル」にあたると思うんですが、ライターさんの中にもタイトル付けが上手な人っていますよね?

―いますいます。「それだ!」というタイトルを付けてきてくれる人が。

前田 僕の中では、タイトル付けが上手いライターさんって「文章が上手」というイメージです。伝えるべき主題がわかった上で記事を構成し、それを凝縮させたタイトルを冠として乗せられるわけですから。

―本当に、仰る通りです。コピーを作る仕事は恐ろしく大変であるということはよくわかったのですが、それでも「面白い」と感じるのはどんな瞬間ですか?

前田 イメージしていたものがパシッと決まった瞬間、ですかね。あと、コピーってそのまま「コンセプト」になるんですよ。1本の広告コピーによって、そのプロジェクトの世界観や方向性が定まっていくんです。コピーライターは、実はコンセプトメーカーでもある。そうやって深くプロジェクトに入り込めるのが、楽しい点ですね。

ライターを続けたければ「外に出よ!」

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―とてもやりがいのあった広告制作のお仕事だと思うのですが、それでもご退職されてフリーランスになられたんですよね。なぜ?

前田 仕事があまりにキツすぎた……というのは冗談ですが(笑)、僕はどうも組織の中でじっとしていることができないタイプのようで。2年半で退職して、その後に入社したWEB制作会社もまた2年半で退職……。その後、ベンチャー企業に入社したんですが、そこは半年で退職しました……。

―3年と続いていませんね。

前田 そうなんです(笑)。その間さまざまな業態を転々とするうちに、CGを覚えて、コピーライティングを覚えて、いつの間にかWEBディレクションもやっていたりして。

―あれ、そういえば。どんどんスキルアップしていっていますね。いまではマルチプレイヤー!

前田 いや、マルチというほどでもありません。広く浅く、です。ベンチャー企業に務めているとき、そこはまだオフィスを構えていなくて、コワーキングスペースの『THE TARMINAL』を利用していたんですが……。

―以前、PENYAでも紹介させていただきました。実は今回のインタビューも『THE TARMINAL』に場をお借りしたのですが、そもそも前田さんを我々に初回してくださったのも、『THE TARMINAL』の内藤さんで。

前田 コワーキングスペースって、そういった繋がりができるのがいい点ですよね。『THE TARMINAL』の内藤さんには、いろいろな方を紹介していただきました。ここの忘年会で知り合って、仕事に繋がった例はたくさんあります。

―前田さんは、わりとあちこちのコワーキングを利用されるのですか?

前田 はい。『THE TARMINAL』が多いですが、クライアントとの打ち合わせ場所によって、その近くで探したり。いまでは都内のいろいろなところに増えましたからね。

―フリーランサー、とくにライターさんって「家から出たくない」という理由で職を始める方が結構多いんですよ。でも前田さんは、外に出る?

前田 僕は、逆に家では仕事ができないんですよ。実はひどく人見知りをするタイプなのですが、それでも、1人でコワーキングスペース主催のイベントや異業種交流会に顔を出すようにしていますね。

―それはなぜですか? 営業活動?

前田 やっぱり繋がりができるというか、顔と名前を覚えてもらえますから。僕は、フリーになってからは営業らしい営業はしたことがないんです。でもイベント、飲み会なんかには顔を出すようにしています。そういった場で「こんなことやってます」と伝えておくと、いつか思い出してもらえて、「そういえばコピーライターさんでしたよね。ネーミングの仕事があるのですが」と後々になって連絡をいただいたりするんです。

―人脈が物を言うわけですね。クラウドワークが簡単になった時代でも、Face to Faceの強みはいぜんとしてありますよね。

前田 そうだと思います。「こんな仕事ができる人を知りませんか?」と相談されることもあるのですが、そのときに、これまでの仕事でお世話になった先輩を紹介できたりもしますし。「家から出たくない」という後ろ向きな発想でフリーランスの仕事を選ぶのだとしたら、ちょっと違うかな、と僕は思います。気持ちはわかるんですけどね。

―フリーランサーの良さってどの辺りに感じられていますか?

前田 自由。やっぱり、組織に縛られない自由さが一番の魅力ですよね。ただ、自分で時間管理はきちんとしなくちゃいけないと思っています。僕は、なるべく朝は早く起きて、毎日筋トレから始めるんです。それからコワーキングスペースへ出かけて、遅くとも21時には“閉店”するようにしています。

―閉店時間を設けるって、すごく大切なことだと思います。そうしないと「稼いだ分だけお金になる」と無理しがち。でもそれってあまり長くは続けられなくて、後々に身体を壊すだけですから。

前田 あと、夜中にメールを送ったりすると、受け取った側もちょっとね……。仕事のことを思い出して、嫌な気持ちになる人がいるかもしれませんから。フリーでやっていると、どうしても独りよがりになりがちですが、相手があっての仕事だということを忘れないようにしたいですよね。というのも、僕が、寝る前についメールチェックをしてしまうタイプなので。

―あぁ……そうすると、もう気になって眠れないですよね。

前田 そうなんですよ。ということは、こっちから送った夜中のメールで相手に迷惑が及んでいるかもしれませんから。

―クライアントへの気遣い、配慮は、フリーランサーには欠かせないことですね。

前田 その代わり、お客さんとの打ち合わせがない日なんかは昼間からビールを飲んだり。そのあたりは自由にやっていますけどね(笑)。

プロを目指すならまずアカデミックな知識を得る

―メリハリをつけられるのは、フリーの仕事のいいところですね。前田さんはライターのご経験もあるし、「向き/不向き」が分かるんじゃないかと思うのですが……どうでしょう? ライターさんに向いていない人って。

前田 「文章を書くことが好き」という人はライターには向いていないのではないでしょうか。

―おっ、これは鋭い! 「文章を書くのが好き」はダメ?

前田 ダメ、というか、文章を書くのが好きなら小説家になればいいと僕は思います。一方のライターって、受けた仕事の内容が好きか嫌いかとかは関係なく、資料を調べて、取材をして、主題を掴んで、読みやすい記事にまとめるのが仕事ですよね? となると、好きなことしか書きたくない人は向いていないんじゃないかな、と。

―まったくそうだと思います。好きなことを書きたいなら、それはブロガーさんですよね。

前田 そうそう、ライターとブロガーはまたまったく違うものですよね。ブロガーは拡散力が求められる……ということは、ある程度は自分のキャラが立っていないとなれないし。本業にできるのはごく一部の人。ライターも、腕1本で食っていくって大変ですけどね。だって1記事のギャラが1万円だとして、何十本書けば生活できるのか……。

―確かに、一般的な企業勤めの方のお給料に追いつくには、相当な売れっ子ライターにならないと厳しいと思います。

前田 だから、ライターさんは「編集力」も持っておいたほうがいいと思うんです。ディレクション、ですよね。全体のフローがわかっていて、クライアント要望を理解した上で構成を組み立てられて……というスキル。だから僕は、学校に行くことをおすすめします。

―前田さんがコピーライター養成講座に通ったように。

前田 未経験からいきなり「今日から俺はライターだ」と名乗ることも可能ですが、それだと数百円の安いライティングの仕事しかない。一度それで自分が値付けされてしまうと、その後ステージを上げるのは大変だと思います。だからまずはライター養成学校なりに通って、プロの仕事とはどういうものかを学んだほうがいいと思います。

―「誰でもライターになれますよ」という風潮があるこの時代に、“まずは学校に通う”というのは大変貴重なアドバイスです。

前田 アカデミックな知識やスキルは、プロのフリーランサーとしてやっていくときに必ず強固な下地になりますよ。スクールの講師がまずプロですから、触れることで自分のレベルの低さや考えの甘さが露見して、「これはまずいぞ」と意識も変わりますよね。僕が最初の養成講座で体験したように(笑)。事前に考えたコピーの本数が少ないことがバレたときに「プロってヤバい」と、本当に痛感させられましたから。

―プロになりたければ、まずプロに触れる。それでも「やりたい!」と思えた人なら、可能性はありそうですね。今日は長い時間のインタビュー、ありがとうございました!

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前田さんは、気持ちの向くままに飄々と生きているようで、要所要所で厳しいプロの世界で揉まれ、乗り越えられている……。その経験が厚みのある“応用力”となり、仕事が途切れず舞い込む理由になっているのだと感じました。

そして驚くべきはコピーライティングの難しさ! 街中で目にする1本の短い広告コピーが、そんなにも大変な労力によって生みだされていたなんて! 舞台裏を知ると、短い言葉の重みを感じられますね。ライター目線では、タイトル付けの難しさと重要性がますま理解できたのではないでしょうか。

プロのフリーランサーの楽しさと厳しさ。どちらも存在するのが現実だと思います。それでもクリエイティブな仕事に携わる人々は、「忙しい」と口にしながらも生き生きとしています。

そんなクリエイターたちを、これからもPENYAを通じてご紹介していきます!

今回訪ねた人:前田清仁さん

大学卒業後、3DCGアニメーターとしてゲーム会社に勤務。その後、コピーライターとしてSP領域でのコピー開発に携わる。退職後、出版社で取説、広告、WEBページなどのディレクションを担当。その後、ベンチャー企業でアプリの企画や、3DCGの作成に関わる。現在はフリーのコピーライター、3DCGデザイナーとして活動。

取材協力:THE TERMINAL

http://theterminal.jp/

 

著者プロフィール

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藤島由希
早稲田大学を卒業と同時にライターに。以後、フリーエディター、インタビュアーとして女性誌を中心に活動。これまでの執筆媒体は『anan』『Hanako』『GINZA』『BRUTUS』など。現在はWEBディレクターとして活動中。趣味、街歩き。好きな食べ物、おにぎり。

 

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